色素の粉末を水に溶かしたとき、どれだけの濃さの溶液になるかを示すのが色価です。
たとえば、ベニコウジ色素を水に溶解すると水溶液が得られますが、同じ量の別の色素を同じ量の水に溶かしても同じ濃さの色素溶液が得られるとは限りません。色素固有の色を出す性質と色素の濃度が関係します。
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ベニコウジ色素
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ベニコウジ色素水溶液
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まず、色の濃さはどのようにして測定するかを説明します。
可視吸収スペクトルを用います。色素の溶液を石英の容器(長さ1cm、一般のガラスやプラスチックスでは紫外線が吸収されるので、吸収の無い石英を使います)に入れて光を当て、色素溶液を透過して出てきた光の強さを測定します。入射光をI0、透過光をIとしますと、吸光度(A)は、A=log(I0/I)と定義します。いろんな波長の光を当てて吸光度を測定すると、吸収スペクトルが得られます。吸光度の最も高くなる波長を、最大吸収波長(λmax)といいます。色素の濃度が高いと吸光度は高くなるので、吸光度は色素濃度の目安になります。
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入射光(強さI0)と透過光(強さI)
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吸収スペクトル
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色価は一定量(グラム、g)の色素量あたりの吸光度で表します(下の式)。例えば、色素1グラムを10 mlの水に溶かした水溶液の吸光度が1であれば、色価は1になります。植物から抽出した色素には、植物の色素以外の成分が含まれていますので、純粋な色素に比べて色価は低くなります。また、色素の種類によっても色価は違ってきます。色素によっては水溶液のpHによっても色価は変わってきます。ある色素についての色価がわかっていれば、ちょうどよい濃さの溶液を作るときに何グラムを溶かせばよいかが分かるので便利です。
(色価については、厚生労働省の食品、添加物等の規格基準に記載されています。補足説明をご覧ください)
化学は純粋な物質を取り扱うので、1分子当りの分子吸光係数(ε)が色価に相当します。簡単な化合物を例にすると、安息香酸(C6H5-COOH, 分子量122)1モル(122グラム)を1リットルの水に溶かすと、濃度(c)が1mol/lの溶液ができる。この溶液の吸収スペクトルを測定すると、濃度が濃すぎて測定できないので、10,000分の1に薄めて、長さ(d)1cm
の石英容器に入れて測定すると、吸光度(A)は1になるはずです。吸光度と分子吸光係数の間には、A=εcdの関係があるので、安息香酸の分子吸光係数(ε)は、10,000になります。
分子吸光係数は分子の紫外・可視光線を吸収する性質をあらわすもので、分子の構造によって違ってきます。フラボン系の黄色い色素を比較してみます。下の図で、右側と左側の化合物では、その構造は少ししか違わないが、紫外線の吸収に対しては異なっています。左の化合物(Quercetagetin)の最大吸収波長(λmax)は361nmで、分子吸光係数(logεmax)は4.34です。右の化合物(Quercetin)では、λmax=375nmで、logεmax=2.75です。一般に、ベンゼン環などの芳香族化合物の分子吸光係数は大きいことが分かっています。
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Quercetagetin, 361 nm, log ε4.34
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Quercetin, 375 nm, log ε2.75
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色価は、特に天然色素の色素含量を示す値として正確であるので、最近よく使われるようになってきました。しかし、アントシアニン系色素についてのpHによる変化で示したように、色素は条件によって色が変わり、従って色価が変わってくるので、測定した条件と同じ条件での比較が重要です。
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