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    蛍光はどのようにして光が出るのですか?
   

 

 フルオレセイン(fluorescein)という色素は蛍光(fluorescence)を発することで知られていて、蛍光染料(fluorescent dye)の仲間です。紫外線を当てると緑色の光を出します。蛍光を出すペンライトはご存知でしょう。この光は、光の反射、散乱、干渉などとは違います。これは、物質から出る光ですが、蛍光灯も理由は同じです。

 

フルオレセイン

 

フルオレセインの蛍光

(フルオレセインの構造式で2重結合位置を修正しました。進藤先生有り難うございました。06/02/06)

 では、どうして光が出るのでしょう?
 トマトが赤いのは、青と緑の光を吸収して赤い光を反射するので、赤く見えるのでしたね。では、吸収された光は、その後どうなるのでしょう?
 下の図を見て下さい。光が当たっていない色素は「基底状態」(緑の球)という、安定な普通の状態にいます。光を当てると、吸収して「励起状態」(赤い球)というエネルギーの高い不安定な状態に上がります。赤い球のエネルギーが失われると、もとの緑の状態に戻ります。トマトはこのようにして青と緑の光を吸収しているのです。
 では、そのエネルギーはどこに行ったのでしょうか。蛍光を出さない物質では、熱運動でエネルギーを消費します。回転したり、振動したり、折れ曲がったりすることです。しかし、フルオレセインなどの分子は熱運動によるエネルギーの消費ができないので、しかたなく相当するエネルギーに見合った光を出して、基底状態に降りるのです。この発光が、蛍光なのです。
 物質が「励起状態」に昇るためのエネルギーは光だけとは限りません。電気エネルギー、熱エネルギー、化学反応、などでもよいですし、高いエネルギーを持った物質から貰うこともできます。蛍光灯は、放電により管内の水銀を励起させて紫外線を出させ、それが管壁に塗ってある蛍光物質に当たって、光を出すのです。ホタルの光は、ルシフェリンという物質の化学発光です。化学反応により励起状態と同じ状態の物質が作られ、それが基底状態に降りるときに光(蛍光)を出すのです。

光の吸収による励起と発光(蛍光)

 蛍光は光を当てている間だけ光が出るので、光を当てるのを止めれば見ることはできません。しかし、光を当てるのをやめても光り続けるものがあります。これが、リン光(phosphorescence)です。黄リンがリン光を出すので、リン光と言われるのでしょう。
 リン光がでるしくみを表したのが次の図です。蛍光が出るのは、励起状態のうち「一重項状態」と呼ばれる状態から基底状態に降りるときの発光です。一重項は非常に不安定ですので、持っているエネルギーを熱エネルギーや光エネルギーとして消費し、安定な基底状態に早く降りるのです。励起状態にはもっと安定な「三重項状態」があり、一重項から三重項に移れば、もっと長く励起状態に留まることができます。しかし、三重項も基底状態に比べれば不安定なので、やはりエネルギーを失って基底状態に降ります。このとき出る光がリン光です。三重項にいる時間(寿命)が長いので、光の照射を止めても、リン光が見られるのです。

リン光の出るしくみ

 蛍光やリン光などの励起状態から基底状態に降りるときに出す発光は、一般的にルミネッセンス(luminescence)と呼ばれます。発光する物質には、有機材料と無機材料がありますが、工業的には無機材料が多く使われます。例えば、カラーテレビのブラウン管に塗ってあるのは無機の蛍光物質です。また、暗くても光る時計の文字盤は、ZnS, CaSなどの無機のリン光物質です。

 フルオレセインがなぜ蛍光を効率良く出すのかを考えてみます。下の「化合物1」はフルオレセインですが、二つのベンゼン環が酸素でつながれています。「化合物2」では、三つのベンゼン環はバラバラで、回転が自由です。化合物2では、このような回転によってエネルギーが消費されて、発光しないで基底状態に降ります。しかし、化合物1では、このような回転によるエネルギーの消費は無く、エネルギーは発光(蛍光)に使われるのです。

化合物1(フルオレセイン)

化合物2

 繊維やプラスチックの中には青い光をいくらか吸収するため、やや黄色を示すものがあります。また、使用中に劣化して黄色がかった色を示すときがあります。このような時に、黄色の補色にあたる青または紫の蛍光を発する無色の化合物を添加すると、蛍光が黄色を打ち消してわれわれの目には白色に見えます。このような物質は蛍光漂白剤(蛍光増白剤)と呼ばれ、繊維、プラスチック、紙などに添加して使われます。スチルベン系染料(stilbene dye)がよく知られています。スチルベンとは、二重結合を2つのベンゼン環で挟んだ(下の構造式で赤の部分)構造です。蛍光染料の応用例の一つです。


スチルベン系蛍光漂白剤の例

 蛍光物質にはいろいろな応用例がありますが、最近、液晶ディスプレイに代わるものとして、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELディスプレイ、 electroluminescence display)が注目されています。電圧をかけると発光する物質を利用したディスプレイで、発光体をガラス板に塗って、電圧を制御して表示を行なうものです。硫化亜鉛などの無機物を使う「無機ELディスプレイ」と、ジアミン類などの有機物を使う「有機ELディスプレイ」の二種類があります。低電力で高い輝度が得ることができ、視認性、応答速度、寿命、消費電力の点で優れており、液晶ディスプレイのように薄型にすることができます。このように、発光材料はIT革命にとっても重要なものなのです。

 

   
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