ファックスなどで使われる感熱紙は白ですが、ファックスを受信すると文字や絵が出ます。これは、感熱紙に含まれている発色剤(ロイコ色素、leucodye,
leucoは白の意味)が熱によって反応して色素に変わったためです。
感熱紙と感熱ヘッドの構成は下の図のようになっています。感熱紙は、紙の上に無色のロイコ色素と顕色剤が混ぜて塗ってあるのです。この状態ではそれぞれが固体ですので、反応せず無色のままです。感熱ヘッドは文字を書く部分に発熱体がありますが、電流が流れないと熱くはなりません。
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感熱紙と感熱ヘッドの構成
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ファックスが電話で信号を受信すると、感熱ヘッドの文字にあたる部分に電流が流れ、発熱体が熱くなります。すると、その部分のロイコ色素と顕色体が溶けて反応し、ロイコ色素は色素になって文字になります。文字の無い部分は電流が流れないので加熱されず、ロイコ色素はそのままで色は着きません。
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発色の過程
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では、ロイコ色素と顕色剤の反応とはどのようなものでしょう?
理科の実験で、水にカセイソーダの水溶液を加えて、アルカリ性にするとき、フェノールフタレインを使いませんでしたか?フェノールフタレインを使うと、pH(水素イオン濃度、英語:ピーエッチ、ドイツ語:ペーハー)が8〜10で紅色になるので、アルカリ性になったことが一目でわかるのです。
フェノールフタレインは酸性や中性では下の図の左のような構造をしています。五角形の構造はラクトンといいますが、三つのベンゼン環は二重結合ではつながっていませんので、可視光線での吸収が無く、無色のロイコ色素です。アルカリ性になるとラクトンが切れて、二重結合ができますので、三つのベンゼン環がつながり、紅くなります(波長の長い光を吸収するようになるからです)。
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フェノールフタレインのpHによる変化
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感熱紙は、このようなロイコ色素⇔色素の反応を使うのです。ロイコクリスタルバイオレッドは無色ですが、顕色剤と接触すると青色のクリスタルバイオレッドの色素になります。やはり、ラクトン環が開いて、ベンゼン環が連結した構造になるためです。上のフェノールフタレインと比べると、ベンゼン環に付いているのがアミンです。このようにベンゼン環に付いているものが変われば、色が変わってきます。吸収する光の波長が変わるためです。
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クリスタルバイオレットの顕色剤による発色
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ところで、顕色剤とはなんでしょう。実際に感熱紙で使われている顕色剤は、ビスフェノールAや、βーナフトールのようなフェノール化合物です。ロイコ色素からできた色素は、再びラクトンができてロイコ色素に戻ってしまいますので、色素の状態で安定に保つことが必要です。顕色剤はこのような役目もしています。顕色剤はシリカゲルのような無機の化合物でもよいのですが、感熱紙では、感熱ヘッドの熱でロイコ色素と同じような温度で溶けることが必要なので、フェノール化合物が使われているのです。
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顕色剤の例
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ロイコ色素⇔色素の反応は感熱紙以外でも使われています。ノーカーボン紙は圧力を加えることにより発色させます。そこで、ロイコ色素と顕色剤をゼラチンのようなカプセルに入れておきます。ボールペンで文字を書くと圧力がかかりますので、カプセルが壊れてロイコ色素と顕色剤が接触して反応し、色素ができるのです。
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ノーカーボン紙(感圧)の原理
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光が当たると色が着く感光色素は、ロイコ色素⇔色素の反応を光を行うものです。
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