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   半導体はどんな色?
 

 

半導体とは?

 電気を通す物質は導体(Conductor)で、銅や金、銀などの金属が知られています。一方、電気を通さない物質は絶縁体(Insulator)で、ガラスやプラスチックなどがあります。半導体(Semiconductor)は、導体と絶縁体の中間的な物質で、普通は電気を通さないが、ある条件では電気を通します。半導体は非常に重要で、半導体を使った集積回路(Integrated Circuit、IC)は、携帯電話やテレビ、パソコンに多く使われています。
 半導体としてよく知られているのはシリコン(Silicon)です(紛らわしいのですが、シリコンはケイ素Siで、シリコーン(Silicone)はケイ素樹脂でシリコーンゴムや防水シールなどに使われています)。高純度のシリコンを結晶化させて左の写真のような棒状にします。これを薄く輪切りにしてシリコンウエハ(Silinon wafer)にします。これを光微細加工すると、写真のような多くの回路が描かれます。一つの回路を切断して組み込んで、右のような集積回路が出来上がります。このような集積回路は、パソコンや携帯電話の内部を見てみると、使われているのが分かります。

シリコン結晶

シリコンウエハ

集積回路


導体、絶縁体、半導体

 電気が流れるとは電子が流れることです。マイナスの電子は原子において原子核の外側にあって、プラスの原子核に結びついています。したがって、電子が原子から飛び出して自由に動き回ることは普通には起こりません。しかし、原子が沢山集まってできている金属では、自由電子となって自由に動くことができるのです(Q&A71参照)。でも、電子を本当に自由にするには、ブラウン管の電子銃のように、高圧や高熱が必要です。

 このように金属では電子は原子から離れて動くことができますが、半導体や絶縁体では簡単には動くことはできません。銅原子の構造で説明したように、電子は軌道を回っていて、原子核に近い軌道では原子核に引力で結びついています(価電子帯)。でも、熱や光などのエネルギーを与えると、外側にある電子はエネルギーを得て、高いエネルギー状態の伝導帯に移ることができ、動くことができるようになります。この価電子帯と伝導体の間のエネルギーがエネルギーギャップ(Eg)で、電子はこの状態に存在することができない禁制帯です。電子が価電子帯から伝導体に移るのは、アナログではなくデジタルでしか移ることができないのです。
 金属では伝導体が直ぐ近くにあり簡単に移動できるが、絶縁体では大きなエネルギーを与えないと伝導帯に移ることができず、半導体はその中間のエネルギーで伝導帯に移ることができるのです。

金属、半導体、絶縁体とエネルギーギャップ

半導体ナノ粒子

 シリコンのような半導体を小さな粒子して光を当てると、蛍光発色します。1 cm角のシリコンを、10 nmの厚さでスライスし、さらに縦に切るとナノワイヤができます。これをさらに10 nmで切ると10 nm角のナノ粒子ができます。

 ナノ粒子は何もしないと光りませんが、光を当てると蛍光が見られます。結晶の大きさと蛍光色については直線関係があり、サイズが小さくなると波長が短くなり、赤色から青色に変化します。このことを理解するには、さらにバンド構造とバンドギャップを理解しなくてはなりません。可視光では赤色は波長が長く、青色は波長が短いのです。


バンド構造

 Q&A61で、二重結合が長くなると、どうして吸収が長波長になるかを説明しました。
 二重結合の数が増えると、多くの軌道が結合性、反結合性ともに増えてきます。すると、エネルギーの幅がでてくるので、HOMO(基底状態の一番高いエネルギー状態)は高く、LUMO(励起状態の一番低いエネルギー状態)は低くなってきます。
 光のエネルギーを吸収する励起はHOMOからLUMOへ起こりますから、二重結合の数が増えるとHOMOとLUMOのエネルギー差(ΔE)、すなわち吸収のエネルギーが小さくなり、光の波長では長波長に移動するのです。最後にはエネルギー差が無くなり、金属のように電子は自由に移動できるようになるでしょう。

 シリコン原子1個だと、二重結合一個のように、一つだけのエネルギーレベルを考えればいいのですが、シリコン結晶では沢山の原子が集まっていますので、二重結合が沢山あるような状態になっています。このような状態での準位のエネルギー差を測定することは不可能で,見た目上ほとんどエネルギー準位が連続的に分布していて,バンド(帯)状の準位を作ります。これが,「エネルギーバンド」と呼ばれるものです。

 半導体結晶をどんどん小さくしていくと、バンドギャップはバルク体の時に比べて広がります。これは量子サイズ効果と呼ばれ、模式的に示すと下の図のようになります。この図で、ナノ粒子の構成原子数は、102〜104個くらいの範囲です。ナノ結晶では、そのバンドギャップの位置がほとんど可視光領域と一致するので、同じ化合物でも粒径によって色が変わることになります。

 したがって、半導体結晶の大きさを小さくしていくと、エネルギー差が可視光線と同じレベルになり、赤や青などの可視光線を発光するようになります。


量子サイズ効果(quantum size effect)

 粒子の直径を小さくすると,電子がその領域に閉じこめられるため,電子の運動の自由度が極端に制限されるために,その運動エネルギーは増加します。この現象を量子サイズ効果といいます。また、このように電子を閉じ込めたものを、量子ドットと呼びます。

 図のような谷でビー玉を転がすと、底に到達してから左の山に向かって登りますが、右、左と振動して、最後には谷底で止まります。この図では、横軸は位置を、縦軸はエネルギーを示しています。ところが、電子の場合には、最後には谷底ではなく、少し上に上がったところに止まります。谷底の位置に固定化すると、エネルギーが高くなるからです。電子のような小さな粒子では、位置を決めるとエネルギーが大きくなり、エネルギーを決めると位置を決めることができないためです。

ビー玉の位置とエネルギー 電子の位置とエネルギー

 この量子サイズ効果により,半導体ナノ結晶では光の吸収・発光波長を粒子径により制御することができるのです。


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