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   赤や青の金があるのですか?
 

 

金の色


 
金や銀の色については、Q&A26で説明しました。金や銀、銅は独特の色をしていますので、硬貨に使われると、種類の間違いは少ないです。金属は、色素のように補色を吸収するのではなく、光のエネルギーを吸収して、色の光を出すのでした。金の発する光は黄色に似ているので、黄色に見えます。金属は原子が集まったものですが、金属原子から電子が飛び出し金属陽イオンになっています。

 飛び出した電子は、原子である陽イオンの間を自由に動き回っています(自由電子といいます)。これに電圧をかけると、電子はマイナスですのでプラスの方向(陽極)に移動し、電気が流れることになるのです。金属の表面に光が当たると、表面のごく薄い層に存在する金属イオン、自由電子などが、光のエネルギーを吸収して共鳴振動を起し、その振動のエネルギーを表面より放出します。これが、金属からの光の反射です。光の反射が可視光線全域で起これば、全ての波長の光を反射するので、鏡のようにピカピカになります。
 色の違いは光の波長の違いです。金は黄金とよばれ黄色を帯びていて、銀は白っぽく、銅は銅赤色とよばれ赤味を帯びています。 これは金の場合はその吸収し放出する波長が黄色側にずれていて、銀は全ての波長の光を反射し、銅では赤色側にずれているためである。これを選択反射といいます。

 ところで、小さな金の粒子では、赤や青に見えるものがあるのです。ステンドグラスの赤色は金の小さな粒子(ナノ粒子)です。 ステンドグラスとは、着色された(stained)、ガラス(galss)の意味です。様々な色の色ガラスを組み合わせた、色々な模様・画像などを描き出したガラス板によるモザイクのことを言います。教会の窓などに使われていますが、一般家庭の家でも使われるようになりました。
 透明なガラスに色素を塗れば、カラーのガラスを作ることができますが、これはガラスの表面だけで、内部は透明なままです。また、ガラスは高温で作られるので、塗料などに使われる有機の色素は炭になってしまいます。ステンドグラスは、上から色を塗るのではなく、ガラスの原料の中に色々な金属を混ぜて、ガラスそのものに色を付けてます。


九谷焼

 九谷焼は石川県の伝統工芸ですが、石川の金箔も有名で、金箔は食用にも使われています。金は化学的には安定な金属で、体内に入っても安定ですので、毒性は出てこないためでしょう。金は軟らかいので、箔は叩いて薄くのばして使われますが、ほとんどは石川県で作られています。金箔は1ミクロン程度の厚さですが、もっと薄くすると透けて見えるようになり、箔をすかしてみる と黄色の補色の緑色に見えます。 
 やはり石川県にある北陸先端科学技術大学の三宅先生は、この九谷焼の赤に、金のナノ粒子で着色することを考えました。ステンドグラスの透明な赤色を、九谷焼の赤色に応用したのです。基礎的な研究からはじめられ、右のようなきれいな九谷焼のお皿が出来上がりました。この絵は金色ではなく、赤い色ですね。

九谷焼(赤絵)

九谷焼(三宅)

酸化鉄

金ナノ粒子

 陶磁器に使用する上絵具は, 800℃前後で溶融する無色透明のフリットと呼ばれるガラスの粉砕物に,遷移金属元素や顔料等の着色剤を混合したものからできています。陶磁器の表面に筆等で塗布し,電気炉で熱を加え焼付けすることで,陶磁器表面に融着させガラス中に着色剤が溶け込むことで着色ガラスとして発色するものです。従来,九谷焼で使用している赤絵具は,フリット100gに対して,酸化鉄15〜30gを添加・混合し絵具としています。


金ナノ粒子

 ステンドグラスの赤色は、金の小さな粒子の色だと説明しました。しかし、金の粒子が小さくなってナノ粒子になると、赤や青色になるのです。
 さて、金がどんどん小さくなると、どうなるでしょう。金の電子は自由に動いていますが、粒子が小さくなって動ける場所が狭くなり、粒子の表面で動くようになります。普通、電子は光のエネルギーを吸収することはないのですが、ナノ粒子の表面だけで動いている電子では、光のエネルギーを吸収するようになります。
 吸収するエネルギーは、波長の短い青や緑ですから、赤い光が見えるようになるのです。

金溶液の色:粒径(金) 20Å(2 nm)、100Å(10 nm)、150Å(15 nm)、白金 金ナノ粒子溶液の吸収スペクトル
北陸先端科学技術大学の三宅先生のデータ

 金ナノ粒子の溶液(100Å = 10 nm)は赤色で、粒径が小さいと黄色、大きいと青く見えます。この溶液の吸収スペクトルでは、530 nm付近に吸収があります。
 トマトリコピンのUV-VISスペクトル(下右)では、500nm付近に吸収があり、下左図の緑の曲線と同じです(Q&A 60)。緑を吸収するので、赤と青の光が反射してマゼンダの光になります。金ナノ粒子も、緑を吸収して赤く見えるのです。

吸収スペクトルと反射する光の色

リコピンの吸収スペクトル

 金粒子が大きくなると、波長の長い赤を吸収するようになり、青く見えるようになります(上の左の図参照)。



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