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   ナノ粒子とは何ですか?
 

 

金ナノ粒子

 ステンドグラスの赤色は、金の小さな粒子の色だと説明しました。しかし、金の粒子が小さくなってナノ粒子になると、赤や青色になるのです。大きな金の粒子は金色ですが、小さくなると青くなり、さらに小さくなると右の写真のような赤色になります。

 ところで、ナノとは何でしょうか?日本独自の長さの単位は、尺や寸でしたが、国によって異なるのは不便ですから、国際単位系(SI: The International System of Units)で表すことになり、長さの単位はメートル(m)です。1メートルの百分の一が1センチメートル(cm)で、10−2mです。ナノ(n)とは、10億分の1メートルで、10−9mです。小さな単位としてはミクロン(m)がよく使われますが、10−6mで、100万分の1メートルです。化学の分野ではオングストローム(Å)という単位も使われていますが、原子や分子の大きさを表すのに便利だからです。1Å = 10-10 mですから、1 nmは10Åになります。上の写真で赤い金粒子は100Åですが、10 nmの粒子になります。

10n

接頭辞

記号

漢数字表記

十進数表記

100 メートル(m)   1
10−1 デシ(deci)

d

十分の一(分) 0.1
10−2 センチ(centi)

c

百分の一(厘) 0.01
10−3 ミリ(milli)

m

千分の一(毛) 0.001
10−6 マイクロ(micro)

m

百万分の一 0.000 001
10−9 ナノ(nano)

n

十億分の一 0.000 000 001
10−12 ピコ(pico)

p

一兆分の一 0.000 000 000 001

 縦、横、高さが1センチのサイコロを、10 nm(ナノメーター)でスライスすると、薄い膜ができます。その厚さは細胞膜と同じぐらいになります。この膜を、さらに細く切断すると、直径10 nmの細い線ができます。この線は、遺伝子であるDNAと同じぐらいのものです。この線をさらに10 nmで切断すると、縦、横、高さが10 nmのサイコロができますが、これはインフルエンザやエイズなどのウイルスの大きさになります。

           
  サイコロ   細胞     DNA     ウイルス

 物 体を切断していくと小さくなりますが、あるところから物体が見えなくなります。見えなくなった物体がナノ粒子と考えてよいでしょう。物体が見えるのは、光 が当たって反射し、その光が目に入るからです。
 海には波があり、岩に波が当たると砕けて白くなりますので、岩があるのが分かります。小さな岩や石ころがあっても、波は乗り越えてしまうので、石があるのが分かり ません。波の波長よりも大きな岩は分かり、小さな岩は分からないのです。
 光も波ですから、光の波長よりも大きな物体は反射して分かりますが、小さな物体は反射しないので見えないのです。人間が認識できる光は、赤、緑、青など の可視光線ですから、可視光線の波長(350 nm〜700 nm)よりも小さな物体は、目に見えないのです。
光の波は、小さな粒子では乗り越え、大きな粒子は反射するので、見える。
ナノ粒子とは、この様に目に見えない粒子のことです。炭素が60個からできたフラーレンC60の大きさが、ちょうど1 nmナノメートルですから、ベンゼンやメタンなどは、1 nmよりも小さなものです。ばい菌は大きいので、光学顕微鏡で見ることができますが、ウイルスは光学顕微鏡では見ることができず、電子顕微鏡を使う必要があります。

フラーレン


ナノテクノロジーの分析

 ナノテクノロジーは新しい分野ですが、ナノ粒子自体は新しいものではなく、昔からあったものです。分子は、ナノよりも小さなオングストローム(Å)の世界で、分析方法が発達して多くの研究がなされてきました。また、目に見えるミクロン粒子についても、多くの研究がなされてきました。ナノ粒子は分子が何個か集まったもので、分子の大きさに比べると大きいために、分子に使われている分析手法が使えない場合が多いのです。化学で使われている分析方法は、分子を構成する原子や電子を見ていますので、ナノ粒子はそれに比べて大きいために、見ることが出来ないのです。象の毛を見ても、全体の象の姿を見ることが出来ないのと同じです。

象の皮膚と毛

象の全体の姿http://www.naturephoto-cz.com/

 ナノ粒子の全体を見るには限外顕微鏡や光散乱を使います。コロイドはナノ粒子ですが、暗いところでコロイドが入った容器に、レーザーポインターなどで光を当てると、光が通った道筋にあるコロイドが見えます。コロイド粒子が光を散乱するために、見えるのです。もちろん、コロイドより小さな分子やイオンは見えません。これを、チンダル現象といいます。霧が深い森で、太陽の光が差し込むと小さな水滴である霧が輝いて見えます。これが、チンダル現象です。

チンダル現象

霧深い森のチンダル現象

 限外顕微鏡を用いて観察すると、コロイド粒子の 不規則な運動 が見えますが、これは 溶媒(水) 分子が 熱運動 によってコロイド粒子に 衝突 するためである。このコロイド粒子の不規則な運動を ブラウン運動 といいます。

コロイド粒子のブラウン運動:水分子が衝突するため沈殿しない 白いミルクも
ブラウン運動

 牛乳が白い理由をQ&A 27で、説明しました。牛乳に含まれる脂肪の粒子に光が当たり、反射して白く見えるのです。牛乳を冷蔵庫に置いておいても、白い脂肪は沈殿にはなりません。これは、脂肪がコロイド粒子となり、水分子が衝突して、ブラウン運動で沈まないのです。


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