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   ミルクはどうして白いのですか?
   


 ミルクは白いですが、これまでのQ&Aを読んだ方は、その理由がわかると思います。白と黒は色ではなく、白は可視光線の全ての波長を反射し、黒は全ての波長を吸収するからです。白いものには牛乳の他にも、豆腐、紙などがありますが、理由は同じです。
 では、全ての波長の光を反射するものとは何でしょう。透明な水が細かな氷になると白くなります。夏に食べるかき氷を考えてください。「みぞれ」は白いですが、これに赤い色素をかけた「いちご」は赤いですね。もし、かき氷に黒い墨をかけると黒くなります。可視光線の全ての波長を反射する白い物とは、透明な物質が小さな固体の粒子になったものです。粒子の大きさが可視光線の波長よりも小さくなったら、透明になってしまうこともQ&Aにありましたね。
 ところで、牛乳の成分には大きな粒子があるのでしょうか。

ミルクの成分
 ミルクは赤ちゃんに栄養と病気から守る免疫を与える重要なもので、人間以外にも牛、ヤギ、などのほ乳類にとっても重要です。ミルクのほとんどは水(87.3%)ですが、脂肪3.9%、糖分4.6%、タンパク質3.25%その他となっており、特にカルシウムを多く含んでいます。

ミルクに含まれているもの

 牛乳の成分は水に溶けるものと溶けないものに大きく分けられます。水に溶けないものは、脂肪とタンパク質のカゼインです。水に溶けるものは乳糖、乳清タンパク質、ミネラルなどです。一番多いのは糖分で、次に脂肪、タンパク質です。

牛乳固形分の成分

 ミルクを5倍の顕微鏡で見ると、均一で少し濁ったように見えます。倍率を500倍の光学顕微鏡で見ると、脂肪の球が見えます(1-100 μm)。倍率をさらに50,000倍に上げて電子顕微鏡で見ると、タンパク質の固まり(カゼインミセル)が見えます(30 nm)。しかし、乳清タンパク質は水に溶けていて実際には見えません。下の図は全てが見えるように書いています。
(1ナノメーター(nm)=0.001ミクロン(μm)=0.000001 mm )
 牛乳は食品として重要で、クリーム、バター、チーズ、ヨーグルト、アイスクリームができます。

ミルクを顕微鏡でみると

粒子の大きさ

脂肪
 ミルクの脂肪はトリグリセリド(triglycerides)といわれるグリセリンに脂肪酸が結合したものです。脂肪酸とは石けんなどに使われているものです。アルコールと酸を反応させるとエステルができます。エステルとは-CO-O-の結合を持ったものです。ペットボトルや繊維に使われているポリエステルも、このエステル結合が含まれています。グリセリンは水酸基(-OH)が3つもあるアルコールの仲間ですが、これが脂肪酸と結合してエステル結合が3つできたものがトリグリセリドです。脂肪酸の長い部分(アルキル鎖)は水に溶けないので集まって球になります。水の中に、水に溶けない粒子が分散したものをエマルジョン(emulsion)といいます。牛乳の脂肪はエマルジョンになっています(サラダドレッシングのようなものです)。

グリセリン、脂肪酸、トリグリセリド

 ミルクの脂肪は室温(25℃)では固体ですが、37℃になると溶けて液体になります。37℃というのは体温ですから、お母さんからのミルクでは脂肪は液体で消化しやすいのです。ミルクの脂肪は水に溶けないので、95%以上は球状になってミルクの中で分散しています。
 脂肪球の大きさは0.1〜15ミクロンで、可視光線の波長(350-750nm)よりも大きいので、可視光線の全ての光を反射して白く見えます。

 ミルクを静かに置いておくと、ストークスの法則(Storkes' Law)によって脂肪の球は沈殿して分離してきます。(Storkes' Law:沈降する速度は球の直径の2乗に比例する)
 牛乳から分離した脂肪は、生クリーム(whipping cream)、バターになりますが、沈降を早めるために遠心機を使います。牛乳を遠心機で分離すると、大きな脂肪の球が底に沈んで脂肪の割合が多くなり、生クリームが得られます。(遠心機とは液体を高速で回転して重いものを遠心力を利用して沈めます。脱水洗濯機のようなものです)
生クリームに食塩を加えて撹拌すると、脂肪が固まり水分が抜けてバターになります。

タンパク質
 ミルクに含まれるタンパク質の80%はカゼイン(casein)といわれるもので、水に溶けません。残りの20%は乳清タンパク質(whey protein)で、水に溶けています。(乳清とはチーズを作るとき分離される水っぽい液のことです。ヨーグルトの上にうっすらと水分がある場合がありますが、その水分が乳清です。)

 カゼインは純粋なものではなく、アルファ(α)-カゼイン、ベータ(β)-カゼイン、カッパ(κ)-カゼインの混合物です。カゼインの特徴は、セリン(serine)アミノ酸単位にリン酸基が付いていてそこにカルシウム(calcium)が結合していることです。ミルクには非常に多くのカルシウムが含まれていますが、それはカゼインに結合しているカルシウムです。 

牛乳のタンパク質(%)

カゼインのセリンにリン酸が付いている

 アルファ(s1)-カゼインは199個のアミノ酸が結合したもので、分子量は23,000ですが、丸まった構造をしています。また、特別な構造をしていませんので、カゼインを加熱しても変性しません。卵は加熱すると固まりますが、ミルクは加熱しても固まらないのはそのためです。
(α-caseinには2種類あり、α(s1)-caseinと α(s2)-caseinがあります。caseinは17個のプロリン(proline)というアミノ酸を含んでいるので、タンパク質の鎖は折れ曲がっています。また、-S-S- 結合(disulfide bonds)も3次構造もありません。)
 カゼインの水に溶けない油性成分(疎水性成分hydrophobic)は外に面しているので、集まりやすい性質があります。それで、カゼインは集まって小さな粒子(サブミセル:submicelle)を作ります。その構造についてはいろんな提案があります。サブミセルはカゼインが10-100個ぐらい集まったもので、内部は疎水性でリン酸カルシウムのひげが外に付いています。サブミセルはさらに、100-1000個集まってカゼインミセル(casein micelle)の大きな粒子(コロイドcollod)を作ります。サブミセルを接着するのはリン酸カルシウムです。

カゼインが集まってサブミセルになり、さらにカゼインミセルになる

 電子顕微鏡の観察でサブミセルの大きさは10-20nmですが、カゼインミセルの大きさは90-150nmぐらいです。この大きさでは可視光線を反射しませんので、ミルクが白い理由は脂肪の粒子であることが分かります。
 ミルクから脂肪を取った脱脂乳は青みを帯びた白色です。粒子が可視光線の波長と同じぐらいの大きさになるとレーリー散乱が起こるので青く見えるのです。それでも白いのは、カゼインミセルにも大きな粒子が含まれているためと思われます。おそらく、カゼインミセルがさらに集まって、500 nmぐらいになっているのでしょう。

カゼインミセルと脂肪球の大きさの比較


 カゼインミセルはミルクの中では安定ですが、いろんな条件を変えるとさらに集まって、最後には固体(チーズ)になります。食塩を加えると固まります。pHを下げて酸性(pH4.6)にするとカゼインが沈殿しますので、ミルクにレモン(クエン酸が入っている)を加えると固まります。4℃にするとカゼインが溶け、0℃ではミセルはできません。加熱すると乳清タンパク質が付着して、ミセルの形が変わります。ミルクにエタノールを加えると、ミセルが集まります。カゼインは熱で変化しませんが、乳清タンパク質は卵と同じで熱で変化します(ミルクを温めると上にできる膜がこれです)。

 ヨーグルトは家庭でも簡単に作ることができます。ミルクに種ヨーグルトを加えると、ミルクに含まれる乳糖を乳酸に変えます。ミルクに含まれるカゼインミセルは酸性になると固まるので、ヨーグルトができます。
 チーズはヨーグルトと似ていますが、水分の少ないものです。ミルクの脂肪と水分を抜いて脱脂乳(skim milk)とし、酵素を加えて酸性でカゼインを固めるのです。

チーズ

ヨーグルト

乳清タンパク質

 牛乳の凝固後やカゼイン除去後に得られる液状部分が乳清で、乳清タンパク質が含まれています。
 乳清はβラクトグロブリン、αラクトアルブミン、牛免疫グロブリン、牛血清アルブミン、 その他(ラクトフェリン、トランスフェリンなど)からなります。これらのタンパク質には活性なものが含まれていて、体内に吸収されると人間には異常なタンパク質として認識され(抗原)、その抗体ができます。これが牛乳アレルギーで、赤ちゃんに牛乳を与えるときには注意が必要です。また、抗ガン作用を示すものも報告されています。


乳糖(Lactose)
 乳糖はグルコース(glucose)とガラクトース(galactose)からなる2単糖で、ミルクには約5%含まれています。乳糖は砂糖ほど甘くないですが、酵素ラクターゼで分解すると、グルコースとガラクトースができるので甘くなります。乳糖はバクテリア(乳酸菌)の酵素ラクターゼ(lactase)により乳酸(lactic acid)ができますので、ヨーグルトやチーズを作るのに必要なものです。ヨーグルトが少し酸っぱいのは、乳酸のせいです。ミルク過敏症(乳糖不耐症)の人は、ラクターゼを持っていない人で、乳糖を消化できなくて下痢などを起こします。これは、牛乳アレルギーとは違います。

乳糖

 ミルクが酸でどうして固まるのかも面白いですが、次の「豆腐はどうして固まるか」で説明します。

 

   
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