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   豆腐はなぜ白いのですか?
   

豆腐(英語でもTofu)

豆腐の原料の大豆

 ミルクが白い理由がわかったので、豆腐(英語はTofu)の白いわけもわかりますね。豆腐にも可視光線の全ての波長を反射する大きな粒子があるからです。それでは、豆腐の大きな粒子は何かを見てみましょう。

 豆腐の原料は大豆(Soybeans)です。豆の木の花が咲いて実がなると、さやに入った豆ができます。青いときは枝豆として、ビールのつまみになります。よく実るとさやは茶色になり、中に大豆が入っています。

豆の木

枝豆

実った大豆

 豆腐とミルクが似ていると聞くと驚きますが、大豆から作られる豆乳を見ると、そのような気がします。豆腐とミルクの成分を比較すると、よく似ていることがわかります。
 ミルクのほとんどは水(87.3%)で、脂肪が3.9%、糖分が4.6%、タンパク質が3.25%、その他となっています。木綿豆腐は、水(86.8%)で、脂肪が5.0%、糖分が0.8%、タンパク質が6.8%、その他です。豆腐はミルクに比べてタンパク質が多いことがわかります。豆腐では糖分などの炭水化物は作るときにおから(英語はOkara)として取り除かれています。
 それでは、豆腐に加工されていない大豆(国産)と、乾燥したミルクと比較してみましょう。大豆は牛乳に比べて、糖分、脂肪が少なく、タンパク質が多いことが分かります(生産地により割合は異なります)。

 

 

牛乳の成分

 

豆乳の成分

豆腐の作り方
 (1)大豆を水につけてふくらませ、→(2)細かく砕きます、→(3)加熱します、→(4)絞って豆乳を作ります、→(5)にがりなどの凝固剤を加えます、→(6)これを容器に移し、→(7)重しを乗せ水分を抜きます、→(8)できたものを切って、水にさらして余分の凝固剤を取り除きます。これで、豆腐のできあがりです。
 (1)大豆には、水に溶けるもの、水には溶けないが細かく分散するもの(タンパク質や脂肪)、全く水に溶けない繊維成分があります。まず水につけてふくらませます。
 (2)水につけて、細かく砕くのは水に全く溶けない繊維成分とその他を分離するためです。
 (3)加熱するのはいろんな目的があり、タンパク質や脂肪を取り出しやすくするため、後でタンパク質が固まりやすくするため、大豆のいやな臭いの成分を固まらせるため、よけいな菌を殺すためです。
 (4)布で絞ると豆乳が得られ、繊維などが含まれるおから(英語でもOkara)が取り除かれます。
 (5)次に固めるために凝固剤を加えます。大豆に含まれるタンパク質を固めるのですが、ミルクを固めてチーズにする方法とは少し違います。ミルクの場合は酸を入れて固めましたが、豆腐は凝固剤を加えます。
 古くから使われている凝固剤はにがり(苦汁)で、海水から食塩(NaCl)を取った残りのもので、カルシウム(Ca)やマグネシウム(Mg)などが含まれています。これが、大豆タンパク質を結合して、固めてしまうのです。(固まるメカニズムは難しいので、次のQ&Aで説明します。)
 (6)これで、豆腐はできたのですが細かい粒になっています、四角の豆腐にするために、容器に移し上から力を加えて、余分な水分を除きます。まだ、苦汁の成分が多く含まれていますので、水につけて除いて、四角い豆腐のできあがりです。

   

(1)水に漬ける

 

(2)粉砕

 

(3)加熱

 

 

(4)絞って豆乳に

 

(5)にがりを加える

 

(6)成形

脂肪
 乾燥した大豆を絞ると大豆油が得られ、白絞油として天ぷらなどに使われています。その成分はトリグリセリド( 96%, triglycerides)、リン脂質(2%, phospholipid)、不けん化物(1.6% unsaponifiables)、脂肪酸(0.5% free fatty acids)、微量のカロテノイド色素となっている。大豆油が黄色をしているのは、微量のカロテノイド色素のためです。
 リン脂質は界面活性剤で、トリグリセリド油の粒子の周りにあって油が大きな粒子になるのを抑えていて、レシチン(lecithin)といわれています。不けん化物には、tocopherolsとsterolsが含まれています。豆腐を作るステップでは、トリグリセリド以外の成分は、加熱などにより除かれます。
 大豆の脂肪もミルクと同じく、トリグリセリド(triglycerides)といわれるグリセリンに脂肪酸が結合したエステルです。ただし、大豆とミルクでは脂肪酸の種類が違うのです。植物と動物の違いがありますので、当然です。
 ミルクの脂肪酸は飽和脂肪酸といって、-CH2-CH2-CH2-CH2-が繰り返されたもので、端にカルボン酸(-COOH)が付いています。-CH2-CH2-CH2-CH2-の部分は、ロウソクのロウやプラスチックのポリエチレンと同じものです。
 大豆の脂肪酸で最も多く含まれるのは、リノール酸(Linoleic acid)で、全脂肪酸の52.4%です。次に多いのはオレイン酸(Oleic acid)で、21.1%です。また、パルミチン酸(Palmitic acid、炭素数16の飽和脂肪酸)が11.2%、リノレン酸(Linolenic acis)が7.1%含まれています。

大豆に含まれる不飽和脂肪酸

 大豆の脂肪酸は不飽和脂肪酸といって、途中に二重結合(-CH2-CH=CH-CH2-)が含まれています。そのため、鎖は真っ直ぐではなく曲がってきます。曲がったものは集まりにくくなります。ミルクの脂肪はバターですが、飽和脂肪酸ですので室温では固体です。しかし、大豆油は不飽和脂肪酸で曲がった構造をしていますので、固まることができずに室温でも液体です(固体が溶ける温度が融点でmp: melting pointで表します)。分子の構造は、その性質に反映されているのが次の表でわかります。二重結合が入って分子が曲がってくると、分子が集合して固体になりにくいので、溶ける温度(mp)はどんどん下がって、アラキドン酸はマイナス50℃にならないと固まりません。

   

ステアリン酸(stearic acid)

 

オレイン酸(oleic acid)

 

リノール酸(linoleic acid)

二重結合なし(mp 70℃)

 

二重結合1つ(mp 16℃)

 

二重結合2つ(mp -5℃)

         
 

 

リノレン酸(linolenic acid)

 

アラキドン酸(arachidonic acid)

   

二重結合3つ(mp -11℃)

 

二重結合4つ(mp -50℃)

   

 不飽和脂肪酸は二重結合があるので、酸化されやすいのです。大豆油は使っていると黒く劣化してしまいますね。その点、ミルクの脂肪(バター)は飽和脂肪酸ですから酸化されにくく、バターは劣化しにくいのです。大豆油を酸化しにくくするには、水素を反応させて飽和脂肪酸にします。

 大豆の細胞を顕微鏡で観察すると、10ミクロン(0.01 mm)の大きさのタンパク質粒子と、0.2〜0.5ミクロンの脂肪粒子が見えます。豆腐を作るときには、細かく砕いたり加熱したりしていますので、どうなっているかは分かりませんが、いずれにしても可視光線を反射するような大きな粒子が存在することは間違いなく、豆腐が白い原因になるでしょう。

タンパク質
 タンパク質には丸まった球状のものと長く伸びた繊維状のものとがあります。大豆タンパク質はミルクのタンパク質と同じく球状タンパク質です。大豆タンパク質にはいろんな大きさのものが含まれているので、超遠心機による沈降速度により分類されています。タンパク質の沈む速度はストークスの法則により粒子の大きさによりますが、その速度は沈降定数で表されていて、Sで表されます(S:Svedberg units)。大豆タンパク質では、超遠心分析の沈降定数(S)より, 小さいものから順番に2S(8〜22%), 7S(約35%), 11S(31〜52%), 15S(約13.5%)の4成分に分離されます。そのうち、主なものは7Sのβ-コングリシニン(β-conglycinin)と、11Sのグリシニン(glycinin)です。

大豆タンパク質の沈降速度

 グリシニンの分子量は 350,000でとても大きいですが、少なくとも6つのもの(サブユニットsubunits)が合わさったものです。これらのサブユニットは酸性のタンパク質(A1〜 A6)と塩基性のタンパク質が(B1〜B4)、ジスルフィド結合(-S-S-)で結合しています。酸性タンパク質とは、-COOHを持ったアミノ酸を多く含むもので、塩基性タンパク質とは、-NH2を持ったアミノ酸を多く含むものです。-S-S-結合は「髪の毛」のところで説明しましたが、タンパク質の構造を硬く固定するためのものです。β-コングリシニンは分子量180,000で、α、α'、β、γの少なくとも4種のサブユニットからできています。
 2Sにはいろんな酵素が含まれています。主なものはトリプシン・インヒビター(trypsin inhibitors)です。また、15S についてはあまりはっきりしていませんが、タンパク質がいくつか集まって大きくなったものと思われています。
 豆腐はタンパク質が固まったものですが、その中には小さな粒子となったタンパク質も含まれています。豆腐が白いのはこのような粒子となったタンパク質が光を反射するからです。

イソフラボン
 大豆に含まれるイソフラボンはフラボノイドの仲間で、ダイゼイン(daidzein)、 グリシテイン(glycitein) 、 ゲニステイン(genistein)などで、グルコースが結合しているか、またはそのままで存在します。これらは、心臓病やがんに有効であることが知られています。


炭水化物
 大豆には約30%の炭水化物が含まれていますが、糖分が10%で不溶の繊維が20%です。
 糖分としては、砂糖(sucrose 5%)、スタキオース (stachyose 4%)、ラフィノース (raffinose 1% )が含まれています。
 不溶部分は細胞壁の成分で、cellulose、hemicelluloses、 pectic substancesなどです。この不溶部分は消化されないので、ダイエット繊維となります。他のマメ科植物とは異なり、大豆にはデンプンはほとんど含まれていません(1%以下)。

 

   
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