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   ミルクや豆腐はどうして固まるのですか?
   

 
 液体のミルクから固体のバターやチーズ、ヨーグルトができ、大豆から作った液体の豆乳から固体の豆腐ができます。ミルク、大豆の成分をQ 27Q 28に載せましたので、ここで固まるわけを考えてみましょう。

チーズ

豆腐

液体と固体
 
まず、液体や固体とは何かを考えます。液体とは分子が自由に動ける状態です。水を入れたコップを傾けると、水の分子は重力によって動いて、コップから流れ落ちます。
 固体では、分子と分子の間に力が働いているので、自由には動けません。氷が入った容器を傾けても流れ落ちることはなく、それ以上に傾けると、氷がそのまま下に落ちます。
 固体には、結晶とそうではないもの(非晶、ガラス状態)があります。結晶とは分子や原子が固体の中で規則正しく並んだもので、砂糖や食塩は結晶です。非晶とは固体で分子や原子は動けないのですが、でたらめに存在するもので、ガラスがその例です。
 豆腐、ゼリー、ヨーグルトも一応固体ですが、中に水がいっぱい詰まったものです。ちょうど、スポンジに水をいっぱい含ませたようなものです。豆腐、ゼリー、ヨーグルトは、穴の空いた籠のようなものができて、中に水が閉じこめられているのです。豆腐の90%は水ですから、多くの水が閉じこめられていることが分かります。赤ちゃんのおむつに使われている超吸水性樹脂も水が入ると同じようになります。
 植物や動物は細胞からできています。その細胞の中には水がたくさん入っています。人間の70%は水であるとどこかで聞いたことがあると思います。豆腐、ゼリー、ヨーグルトでは、小さな細胞のようなものができていて、中に水が入っているのです。細胞の中の水は自由に動けますが、動ける範囲は細胞の中だけです。ですから、豆腐を傾けても、水は出ません。
 ミルクや豆腐が固まるわけは、このような小さな細胞(入れ物)がどうしてできるのかが分かればいいのです。

液体と豆腐の水の動き


ミルク
 バターはミルクに含まれる脂肪からできたものです。ミルクに含まれる脂肪は飽和脂肪酸からできていて、37℃以上では液体、以下では固体です。脂肪は水には溶けないので、放置すると分離して固体になります。水に溶けないものは、分かれているよりも同じものが集まった方が安定だからです。
 チーズやヨーグルトは、ミルクのタンパク質が固まったものです。ミルクのタンパク質はカゼインで、カゼインが集まってサブミセル、カゼインミセルになっています。このようなミセルが水の中で安定に存在するのは、ミセルの外側に電荷をもったものがあって(κ-カゼイン)、集まろうとすると静電反発が起こるためです。ミセルを集めて固体にするには、このようなミセル表面の電荷を取ってやればいいのです。
 電荷の本質はカゼインのアミノ酸(セリン)に付いたリン酸ですが、酸性(pH 4.6)にするとリン酸は電荷を持たなくなりますので、カゼインが集まって固体になります。
 ミルクを固めてチーズにするにはレンネット(rennet)という酵素がよく使われます。レンネットはカゼインミセルの表面にあるκ-カゼインのリン酸を切断します。すると、ミセルの表面は疎水性(水になじまない油性のもの)となって、ミセルが集合してきて、大きなカゼインゲルとなって固まります。
 ミルクのタンパク質であるカゼインは表面が水になじみやすい親水性であるので、うまく水に分散していたのですが、酵素で親水部が切断され、疎水性になって集まり、ゲルになったのです。

カゼインミセルのリン酸が取れて会合する

豆腐
 豆腐が固まるのは、ミルクと同じくタンパク質ですが、ミルクとは違っています。
 豆乳を固めて豆腐にするには、凝固剤を使います。凝固剤としては、にがりが有名です。海水から食塩(NaCl)を取りますが、その残りの液ににがりが含まれています。にがりには塩化マグネシウム(MgCl2 )が多く含まれています。そこで、純粋な塩化マグネシウムも凝固剤として使うことができます。同じように、硫酸マグネシウム(MgSO4)でも固まります。
 カルシウムもマグネシウムと同じく凝固剤になります。塩化カルシウム(CaCl2)、硫酸カルシウム(CaSO4)などです。食塩は凝固剤にはなりませんが、塩化マグネシウムや塩化カルシウムはどうして凝固剤になるのでしょうか?食塩は、Na+とCl-が静電的に結合(イオン結合)したものですが、水に溶かすとNa+とCl-のイオンに分かれます。MgCl2を水に溶かすと、Mg2+と2Cl-になります。Mg2+は2つのマイナスイオン(Cl-)と結合することができるのです(2価のイオン)。CaCl2もCa2+と2つのCl-になりますので、マグネシウムとよく似ています。2価の金属イオンが凝固剤になることができるのです。

1価と2価の金属イオンとイオン結合

 タンパク質はアミノ酸からできていますが、大豆のタンパク質にはどのようなアミノ酸が含まれているかをみてみます。大豆のタンパク質グリシニンにはグルタミン酸(18.7%)やアスパラギン酸(11.7%)が多く含まれているのです。グルタミン酸にはカルボン酸(-COOH)が含まれているので、グリシニンのあちこちにカルボン酸が付いて、水中ではマイナスイオン(-COO-)になっているのです。グリシニンにマグネシウムを加えると、グルタミン酸のマイナスイオンと結合します。マグネシウムは2価のイオンですから、2つのタンパク質と結合します。マグネシウムを加えていくと、タンパク質はどんどん結合して、大きな固まりとなり豆腐になるのです。食塩を入れても、Na+は1価のイオンですから、一つのタンパク質と結合するだけで、タンパク質を結合することがなく、固まりません。カルシウムも2価のイオンですから、マグネシウムと同じようにタンパク質を固めることができます。

にがり(MgCl2)によるタンパク質の結合

 グルコノデルタラクトンという化合物も凝固剤として使われます。マグネシウムやカルシウムは豆乳を直ぐに固めますが、グルコノデルタラクトンはゆっくり固めることが知られています。グルコノデルタラクトンを水に溶かすと、ゆっくり反応してグルコン酸になります。グルコン酸はブドウ糖を酸化してできるものです。
 グルコノラクトンを水に溶かすと、グルコン酸になりますが、全てがグルコン酸になるわけではありません。グルコン酸はグルコノラクトンに戻ってくるのです。また、グルコン酸を水に溶かすと、一部はグルコノラクトンになるのです。これを平衡といいます。グルコノラクトンとグルコン酸の割合は、温度、濃度、pHなどによって変わってきます。酸性にすると水中の酸が多くなるので、グルコノラクトンの割合が多くなります。アルカリ性にするとグルコン酸は塩になって安定化するので、グルコノラクトンの割合は少なくなります。平衡とは2つの水槽をチューブで連結したようなもので、左側の水槽に水を入れると、バランスを保つために水はチューブを通って右側に流れます。

グルコノデルタラクトンとグルコン酸は水中で平衡にある

 では、豆乳にグルコン酸を加えるとどうして固まるのでしょう?
 タンパク質には酸性のアミノ酸と塩基性のアミノ酸が含まれています。酸性のアミノ酸はグルタミン酸などで、-COOHなどを持っていて、マイナスイオンに(COO-)になります。塩基性のアミノ酸はリジンなどで、-NH2を持っていて、プラスイオン(-NH3+)になります。タンパク質中のプラスイオンが多かったり、マイナスイオンが多かったりするとタンパク質は水に溶けるのですが、マイナスとプラスのイオンが同じだけ(等電点という)だと、ちょうど中性になり電荷を持たないので水に溶けなくなります。大豆タンパク質の等電点はpH 4.2〜4.5ですから、pH をこの値にすると大豆タンパク質は溶けなくなるのです。

等電点ではタンパク質は溶けなくなる

 グルコノデルタラクトンを豆乳に加えると、よく溶けて豆乳に均一にいきわたり、そこで徐々にグルコン酸になります。グルコン酸はpHを下げてpH 4.2〜4.5にするので、タンパク質は溶けなくなり固まるのです。マグネシウムやカルシウムはタンパク質を結合して早く固めますが、グルコノデルタラクトンはゆっくり均一に固めるのです。グルコノデルタラクトンを使うと酸性になるので酸っぱいですが、殺菌作用があるので長持ちします。


高吸水性樹脂
 スポンジや脱脂綿は水を吸いますが、せいぜい自分の重さの20倍程度の水を吸うだけです。しかし、高吸水性樹脂は、自重の500〜1000倍もの水を吸収するのです。しかも、押しても水は出てきません。赤ちゃんのおむつにぴったりの材料ですね。
 高吸水性樹脂はポリアクリル酸[-CH2-CH(COONa)-]塩が橋かけされ、小さな部屋ができた構造をしています(下の図の赤い線)。水を吸う前は小さなプラスチックの粉末ですが、水を吸うとゼリーのようになります。小さな部屋に水が入ると、アクリル酸のマイナスイオンが反発して大きく広がろうとします、しかし、橋かけして小さな部屋に区切ってあるので、それ以上は広がりません。その中に、水がたくさん入り込むのです。豆腐のように水が入っているところは似ています。
 豆腐はカルボン酸が金属イオンで橋かけされているのですが、高吸水性樹脂は化学結合で結ばれているので、強くて、押しても水が外に出ないのです。すこし、豆腐とは違いますね。

高吸水性樹脂の構造

ゴルフボール
 ゴルフボールはゴムとプラスチックからできています。表面は凸凹ですが、空気の抵抗と流れを考えてそうなっているので、凸凹がないと真っ直ぐは飛びません。ボールは金属製のクラブ(アイアン)でたたくので、硬い材料で作ったボールでないと直ぐに傷がつきます。でも、表面を金属製にすると重くてよく飛びません。
 ゴルフボールの表面には、アイオノマーという硬いプラスチックが貼ってあるのです。アイオノマーは、ポリエチレンのあちこちにアクリル酸を混ぜ、亜鉛(Zn)などの2価の金属が入っています。2価のZnはアクリル酸と結合するので、ポリエチレンの鎖は動かなくなり、硬い材料になるのです。
 アクリル酸の入ったポリエチレンが豆腐のタンパク質で、亜鉛がにがりです。ただし、ゴルフボールには水は入っていません。こんなところでゴルフボールが出てきておかしいと思ったでしょうが、ちゃんとつながりがあったのです。

ゴルフボール

アイオノマーの構造

 固まった食品にはいろんなものがあります。コンニャク、プリン、かまぼこ、うどん、などなど沢山あります。いずれも水に溶けていたか、分散していたものが、結合して溶けなくなったものです。固まる理由が分かるには、その成分の分析、性質を知ることなどの詳しい研究が必要なのです。しかし、成分であるタンパク質や炭水化物などが結合して固まることには間違いありません。ここで説明したことは、まだまだ詳細には分かっていないこともありますが、わかりやすいように説明しています。すこし事実とは違うこともあるかもしれませんので、お断りしておきます。
 

 

   
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