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    金や銀はきれいですが、なにか色素が入っているのですか?
   


 金、銀、銅は特有の色をしていますが、色素が入っているわけではありません。この三つの金属は硬貨やメダルなどに使われ、特にオリンピックのメダルはその色だけではなく特別な意味があるようです。「金色が欲しい・・・」と言った選手がいましたね。色素が入っていないのに、金、銀、銅はどうしてあのような色になるのでしょうか?

金貨

銀貨

 金属の色が出る仕組みはどうなっているのでしょうか。まず、金属はなぜピカピカなのかを考えてみます。それは、金属が電気を通すことと関係があるのです。金属は原子が集まったものですが、金属原子から電子が飛び出し金属陽イオンになっています。飛び出した電子は、陽イオンの間を自由に動き回っています(自由電子といいます)。これに電圧をかけると、電子はマイナスですのでプラスの方向(陽極)に移動し、電気が流れることになるのです。

金属の構造

 金属の表面に光が当たると、表面のごく薄い層に存在する金属イオン、自由電子などが、光のエネルギーを吸収して共鳴振動を起し、その振動のエネルギーを表面より放出します。これが、金属からの光の反射です。光の反射が可視光線全域で起これば、全ての波長の光を反射するので、鏡のようにピカピカになります。

金属表面での共鳴振動と光の放出

 ところで、金、銀、銅で色が違うのはどうしてでしょう。色の違いは光の波長の違いですね。金は黄金とよばれ黄色を帯びていて、銀は白っぽく、銅は銅赤色とよばれ赤味を帯びています。これは金の場合はその吸収し放出する波長が黄色側にずれていて、銀は全ての波長の光を反射し、銅では赤色側にずれているためである。これを選択反射といいます。金、銀、銅の反射率を光の波長に対してグラフにすると次の図のようになります。

金、銀、銅の反射率と波長依存性

 反射率を光の色で表すと、銀では赤が98%、緑98%、青97%ですので、全ての波長で反射率が高く、鏡のように見えます。鏡は金属として安価なアルミニウムが使われますが、アルミニウムの赤の反射率が90%、緑が91%、青が92%です。アルミニウムの反射率は銀には負けますが、それぞれの色で均一に反射しています。
 金の反射率は光の紫外域(400 nmより左側)から可視域(色の着いている部分)の短波長側できわめて低く、可視域中央の550 nmの部分より高くなり始め、600 nmで62%、遠赤外では98%の高い反射率を示します。赤−黄−緑の反射率が高く、それより波長の短い青−紫の反射率が低いので、黄色ですが、金の表面は周りの写し込みがあるため複雑な金色となるのです。金は軟らかくて、0.07μm程度の厚さまで箔にすることができますが、このような箔をすかしてみると黄色の補色の緑色に見えます。
 銅の場合は、赤の600 nmで93%の反射率があり、緑の550 nmになると67%に低下するので、赤く見えるのです。

 金色や銀色に印刷されたものがありますが、あれは金色インキ、銀色インキが使われています。金・銀インキは、ビヒクル(印刷面に顔料を転移・固着する液状成分)に金・銀粉が混ぜてあるものです。金・銀インキは単独で使われるのではなく、「4色+金・銀インキ」の高輝度印刷としても利用されます。金・銀を網点(小さなスポット)で下刷りしたり上刷りしたりすると、4色印刷では難しいメタリック感を強調できます。
 折り紙にも金の紙がありますが、あれは金箔なのでしょうか?電気が流れるかどうかを試してみるとよいでしょう。金箔ならば電気が流れるはずですが、実際は電気は流れません。折り紙の金紙は銀紙(アルミ箔を貼った紙)の上に黄色い薄いセロファンを重ねただけです。でも反射特性は金色とほとんど同じです。黄色の層が黄色の光だけを通すからです。また、金色や銀色の糸(金糸、銀糸)があり、着物の刺繍などに使われますが、あれも実際は金や銀ではなく、金紙や銀紙とおなじ仕組みのものです。

銀箔と金箔の構造

 金は加工がしやすく、薄く伸ばして金箔が作られますが、もっと安価に金の箔を作ることができます。飲料水が入っているボトルと同じPET(ペット、ポリエチレンテレフタレート)のフイルムを使います。PETはポリエステルといって、ボトルなどの成型品以外にも、繊維やフイルムにして使われます。フイルムはビデオテープやフロッピーディスクなどに使われています。
 ポリエステル(PET)の12〜16マイクロメートル(μm)厚のフイルムに、黄色の色素を塗ります。次いで、アルミニウムを真空蒸着します。真空蒸着とは、高真空の中でアルミニウムを溶解し蒸発させてフィルムの上にアルミニウムを付着させることです。高真空中ではアルミニウムは分子状で飛んでフィルムの上に薄い膜を均一に作ります。膜の厚さは0.03〜0.05マイクロメートル(300〜500オングストローム)といわれています。蒸着層はシルバーメタリック色ですから、黄色コーティングと重なりあってゴールド色に見えるわけです。もちろん、黄色の色素がなければ、銀色の箔になります。

ポリエステル(PET)

ポリカーボネート(PC)

 音楽やデーターなどが入っているコンパクトディスク(CD-ROM)の元になっているのは、ポリカーボネート(PC, Polycarbonate)というプラスチックですが、レーザーの光がよく反射するように、反射層としてアルミニウムが真空蒸着されています。最近、コンピュータを使って、自分でコンパクトディスクを作ることができるようになりました。CD-Rというディスクを使いますが、記録するための色素層と反射層があります。色素には、「シアニン系」「フタロシアニン系」「アゾ系」があり、「シアニン系」は、最もよく使われています。CD-Rの場合、アルミニウムでは記録するための高い光の反射率が得られないので、金や銀などの高い反射率を持った反射材料が使われています。反射率は銀が大きいので銀が使われています。銀の欠点は錆びる可能性が大きいことで、これまでは信頼性を考慮して金が使われていました。しかし、保護層の技術が向上し、現在はより安価な銀が使われるようになってきています。

CDとCD-Rの構造

 金や銀は、その輝きから装飾品に多く使われていますが、それ以外にもいろんな用途があるのです。金は化学的に非常に安定なので、金歯に使われます。また、銀はその陽イオンにバイ菌が付着しやすいので、抗菌剤としての用途があります。バイ菌の細胞は、その表面がマイナスになっていますので、銀の陽イオンに付きやすいのです。

 

   
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