タンニン(tannin)とは植物の葉などに含まれるポリフェノールの総称で、皮をなめし(tanning)て革にするのに使われたことからタンニンと呼ばれていますが、化学的な名称ではありません。
市販されている「タンニン酸」はタンニンともいわれますが、日本薬局方で、「通例、五倍子または没食子から得たタンニンである」と規定されています。五倍子はウルシ科ヌルデの若芽や葉にヌルデシロアブラムシの仲間が寄生し、その刺激によって組織が膨れ上がり虫こぶが形成され、秋に殻を破って成虫が飛び出す前にこの虫を採集し、熱湯に浸した後に乾燥させたものです。
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ウルシ科ヌルデ
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五倍子
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没食子は,ブナ科植物の若芽にインクタマバチが産卵し、その刺激により生じたゴール(虫コブ、gall)です。球形で直径が1-2.5cm、タンニン含量は50-70%です。
食品添加物でこれまで食品として使われてきた天然添加物は、食品衛生法で「既存添加物」といわれますが、既存添加物のタンニンは次のものがあります。
品 名(名 称) |
基原・製法・本質
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柿タンニン |
カキ科カキ(Diospyros kaki THUNB.)の実より、搾汁したもの、又は水若しくはエタノールで抽出して得られたものである。主成分はタンニン及びタンニン酸である。 |
栗皮タンニン |
ブナ科クリ(Castanea crenata SIEB. et ZUCC.)の渋皮より、水又はエタノールで抽出して得られたものである。主成分はタンニン及びタンニン酸である。 |
植物タンニン |
五倍子、タラ末又は没食子より、温時水で抽出して得られたものである。主成分はタンニン及びタンニン酸である。 |
タマリンド
タンニン |
マメ科タマリンド(Tamarindus indica LINNE)の種子の種皮より、エタノールで抽出して得られたものである。主成分はタンニン及びタンニン酸である。 |
ミモザ
タンニン |
マメ科ミモザ(Acacia dealbata LINNE)の樹皮より、水又はエタノールで抽出して得られたものである。主成分はタンニン及びタンニン酸である。 |
タンニンは柿渋や栗の渋などの渋い(苦い)成分ですが、多くの植物の葉などに含まれ、葉が動物に食べられのを防いでいます。タンニンはタンパク質に結合して収れんするので渋く感じるのですが、皮のなめしでは、硬化や腐敗に関連するタンパク質を除くのに使われるわけです。また、お酒の濁りの原因であるタンパク質を除くのにも使われます。
お茶にタンニンが含まれているといわれていますが、緑茶にはタンニンは含まれず、お茶に含まれるカテキンが時間がたっていくつも結合した複雑な化合物になったのがタンニンといわれているものです。
植物に多くの種類があるように、タンニンにも多くの種類があります。そこで、タンニンは大きく2つに分けられています。
(1)加水分解性のタンニン(hydrolyzable tannins):酸などに加水分解されるもの。
(2)縮合型タンニン(condensed tannins):加水分解されないもの。
(エステルは酸とアルコールから水が取れてできたものですが、このエステルに酸やアルカリの水溶液を加えると、元の酸とアルコールになります。これを、加水分解といいます。)
加水分解性タンニン
加水分解性タンニンは水酸基(-OH)を多く持ったD-Glucose(ブドウ糖)に、没食子酸(gallic acid)がエステル結合で結合したもので、加水分解で没食子酸とブドウ糖になります。「タンニン酸」の構造は次のようなものです。
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タンニン酸
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加水分解性タンニンは空気や光に不安定で、アルブミン、デンプン、ゼラチン、アルカロイド、金属塩と沈殿を生じます。特に鉄塩とは黒色の沈殿を生成し、インクの原料になります。
加水分解性タンニンは酸やアルカリの加水分解でエステル結合が切れて没食子酸ができます。また、熱水や酵素によっても加水分解されます。
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没食子酸
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ピロガロール
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没食子酸は古い文献や薬学ではモッショクシサンと呼ばれていますが、化学用語ではボッショクシサンと読みます。ちなみに、「既存添加物」の没食子酸は次のように書かれています。
品 名(名称) |
基原・製法・本質
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没食子酸 |
ウルシ科ヌルデ(Rhus javanica LINNE)に発生する五倍子、ブナ科(Quercus infectoria OIIV.)に発生する没食子より、水、エタノール又は有機溶剤で抽出したタンニン、又はマメ科タラ(Caesalpinia
spinosa(MOLINA)KUNTZE)の実の夾より、温時水で抽出したタンニンを、アルカリ又は酵素(タンナーゼ)により加水分解して得られたものである。成分は没食子酸である。 |
没食子酸のアルカリ性水溶液は還元力が強く、空気中の酸素とも反応し、還元剤、写真の現像剤に使われます。タンニン合成の原料になります。
没食子酸を加熱すると、脱炭酸してピロガロール(pyrogallol)ができます。ピロガロールも還元力が強く、写真の現像液、金属の分析試薬、金、銀、水銀塩の還元剤、ガス分析の酸素吸収剤などに用いられます。また、羊毛の媒染剤、毛皮、皮革、髪などの染色にも用いられます。
縮合型タンニン
縮合型タンニンはフラボノイドがいくつも結合してポリマーになったもので、エステル結合ではなく炭素ー炭素結合なので加水分解は起こりません。また、縮合型タンニンは水にも溶けません。柿渋のカキタンニンやお茶のタンニン(テアフラビン、テアルビジン)などが縮合型タンニンです。ただし、柿のタンニン(右式)にも没食子酸がエステル結合で入っていますので、矢印の部分で加水分解されます。
その他、縮合型タンニンは多くの植物に含まれ、たとえば、豆やタマリンドなどのマメ科植物、オーク、メープル、パインなどに多く含まれています。いずれも構造は複雑です。 |
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お茶のタンニン(テアフラビン)
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柿渋のタンニン
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黒インク
ボールペンやサインペンが普及して、万年筆はあまり使わなくなりましたが、以前はインクは必需品でした。水性の黒インクはIron
gall inkといわれ、タンニンと硫酸鉄(FeSO4)が主成分で、アラビアゴムも入っています。
タンニンと硫酸鉄の水溶液を混合すると、タンニンの鉄錯体が生成します。硫酸鉄の2価の鉄イオン、Fe(II)、が、タンニンの没食子酸成分の水酸基と錯体を形成しますが、黒色ではなく褐色です。この錯体が紙にしみ込んで、Fe(II)がFe(III)に空気により酸化されて、黒色の3価の錯体ができるのです。できた黒色の色素は紙の中に入っていますので、消しゴムでも消すことができません。
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最初はFe(II)の褐色で、酸化によりFe(III)の黒色になる。
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水性のインクに空気をどんどん送り込むと黒くなりますが、沈殿してきてペンに詰まるので、インクとしては使えません。その後の研究で黒インクの色素は、Fe(III)と没食子酸との錯体であることが分かりました。没食子酸の三つの水酸基がFe(III)と錯体を作っているのです。没食子酸でなくても、カルボン酸の無いピロガロールでも同様に黒い色素ができることから、やはり三つの水酸基が重要であることが分かります。
黒インクで汚れた布の色を消すのに、ほうれん草のあく(煮汁)が使われます。ほうれん草にはシュウ酸(oxalic acid,
HOOC-COOH)が多く含まれ(0.97 g / 100 g)、結石の原因になるので、茹でてあくとしてシュウ酸を除きます。シュウ酸は鉄イオン(FeIII)と塩を作りやすく、鉄の錆を取るのにも使われます。シュウ酸はタンニンに結びついた鉄イオンを取るので、タンニンが鉄イオンから離れて黒色が消えてしまいます。
赤さびを黒さびに変えるタンニン
鉄の赤さびをタンニン酸で黒さびに変換することができます。
鉄(Fe)の酸化物には、FeO, Fe3O4, Fe2O3があります。FeOとFe3O4は黒色で、Fe2O3は赤色です。赤さびにタンニン酸を塗ると、表面で錯体ができますが、黒くなるほどの変化は期待できません。
ところが、タンニン酸は容易に分解して没食子酸になります。そして、できた没食子酸は強い還元力があります。没食子酸が赤さびのFe2O3を還元して、黒さびのFeOとFe3O4にしたのです。
柿のタンニンは縮合型のタンニンですが、加水分解で没食子酸ができますので、赤さびに塗ると没食子酸が黒さびに変え、分解されない部分が表面を覆うので、赤さびを抑える塗料になります。
コーヒー
コーヒーにはタンニンは含まれていませんが、タンニン酸と類似した構造のクロロゲン酸(chlorogenic
acid)が含まれています。クロロゲン酸は右の式のような、コーヒー酸(caffeic acid、青色部分)とキナ酸(quinic acid、赤色部分)のエステルで、タンニンとは区別されていますが、加水分解性タンニンの1種とも考えられます。
クロロゲン酸は最初に未熟のコーヒー豆から単離され、植物代謝における重要な因子で、双子葉植物の果実、葉などに含まれていることがわかりました。また、クロロゲン酸も鉄と黒色の化合物を形成し、ジャガイモの切口が褐色に変化する原因ともいわれています。
クロロゲン酸もタンニンほどではないですが、苦みがあります。青いコーヒー豆には4〜5%含まれますが、焙煎により30〜70%は分解してしまい、コーヒーには苦みがあまり残りません。キナ酸も苦みの原因ですが、やはり焙煎により減少します。ちなみに、コーヒーの褐色はコーヒー豆に含まれる糖分(30〜40%含まれる)がカラメル化したためといわれています。
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コーヒーの実
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焙煎した
コーヒー豆
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褐色のコーヒー
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