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   ガラスはなぜ透明なのですか?
 

 

物質の状態

 物質には、気体、液体、固体の状態があります。水では、気体は水蒸気、液体は水、固体は氷です。水蒸気は見えませんが、水や氷は透明ですが見えます。

水の状態

状態

気体

液体

固体

密度(0℃)

1.29 kg/m3

999.8 kg/m3

916.8 kg/m3

屈折率

〜1.0(空気)

1.33

1.31

モデル

 水蒸気では、水分子は1個ずつバラバラで、自由に飛び回っています。空気中には気体の水がありますが、水分子は可視光線の波長よりもずっと小さいので目には見えません。空気中に水が含まれていることは、冬になって外が寒くなると窓ガラスに露が着くので、水の分子があったことがわかります。空気中に含まれる水の量は、温度によって異なるのです(飽和水蒸気量:25℃で23.1 g/m3)。暖かいと水分子は元気に飛び回っていますが、寒くなると元気が無くなり、水分子が集まって露になるのです(この時の温度を露点といいます)。

窓の結露

コップの水

 水が液体になると、水道水、海や川の水になります。液体の水では、水分子同士は水素結合で結びついているので、気体のように自由には動けませんが、コップに入れた水は、コップを傾けると流れ出ますので、その程度の自由度があります。しかし、温度が100℃になると、水分子は動き回り、水蒸気になります(沸点)。水は赤い光を少し吸収しますが、可視光線はほとんど吸収しませんので、透明です。

 しかし、空気とは屈折率(屈折率:真空1、空気 1.000292、水1.33、氷1.31)が違うので、水に当たった光は、反射や屈折をしますから、水の存在は目で見ることができます。耐熱ガラスの屈折率は1.47ですので、水に入れると存在が認識できますが、屈折率が1.47のサラダ油に入れると見えなくなります。
 屈折率とは、光の進む速度が違うことで、真空では光は真っ直ぐに速く進みますが、水の分子が沢山ある液体の水では、光は水分子と衝突しながら進むので、少し遅くなります。何もない野原を歩くときは速く進めますが、人が沢山いる繁華街では人にぶつかるので、歩く速度が遅くなるのと同じです。

水蒸気、液体の水、氷の屈折率の違い

 固体の水は氷ですが、水分子は水素結合で3次元的に結びついていますので、自由には動けません。氷には透明なも のと白いものとがあります。氷は本来透明ですが、作るときに空気が入って小さな泡になると白く見えます。泡の部分で光が反射や屈折するからです。石けんの白い泡と同じです。氷屋さんで作っている透明な氷は、空気が入らないようにしていますが、かき氷にすると白くなります。かき氷では、小さな氷の表面で、でたらめに光が反射(乱反射)するからです。砂糖や塩が白く見えるのも同じ理由です。氷屋さんの透明な氷は、ガラスが透明なのと同じ理由です。

キュービックアイス

氷屋さんの氷

かき氷

 同じ氷でも、雪は白いです。雪は水の結晶だからです。結晶も固体ですが、分子の並び方が3次元的にきっちりしています。氷屋さんの透明な氷では、入射した光はほとんどが真っ直ぐ進みますが、雪の場合は結晶の表面で屈折しますので、白く見えます(屈折率:水1.33、氷1.31)。

 

雪景色

 

雪の結晶

 水は不思議な物質で、普通固体になると密度が上がるのですが、氷の場合は密度が下がります。氷の密度は0℃で0.9168g/cm3ですが、この氷が溶けると10%近く体積が小さくなり、0℃で0.9998g/cm3の水になります。氷が水に浮く理由です(Q&A 50)。氷の結晶では隙間があるためです。

水(液体)のモデル
(隙間がない)

水の結晶(氷)のモデル
(隙間がある)


固体の状態

 液体と固体については、ケチャップのところで説明しました(Q&A 46)。氷と雪のように固体でも違いがあることが分かります。プラスチックは固体ですが、ゴムのように軟らかい物からペットボトルのように硬いものまであります。
 結晶は分子が規則正しく並んだもので、硬いものです。規則正しく並んでいると、隣の分子との結合が強くなるからです。結晶では光は反射したり、光が大きく曲がったりしますが、空気とは屈折率が大きく違うためです。宝石のような大きな結晶では、光が大きく曲がり(屈折)、表面では光が反射しますので、輝いて見えます。砂糖や塩のように小さな結晶が沢山あると、反射はいろんな方向に起こり、全体で白く見えます。砂糖や塩を水に溶かすと透明ですから、結晶は特別な色を吸収しないので、白く見えるのです。
 スーパーへ買い物に行くと、透明な袋と白い袋が貰えます。透明な袋は軟らかく、ポリエチレンの袋です。乳白色の袋もポリエチレンですが、部分的に結晶(下の図で黒い四角の部分)になったものが含まれていますので、結晶で光が反射して透明にはなりません。このように結晶ではない(非晶性)ものが透明なのです。透明なガラスも結晶ではなく非晶性なのです。硬くて透明な物質の多くは、ガラス状態なのです。

 

非晶性ポリエチレン分子(透明)

 

結晶性ポリエチレン(乳白色)
(■が結晶)

 

ポリ袋

 

ポリ容器


ガラス状態とは?

 液体の水が結晶にならずにそのままの状態で固まると、水分子は動かなくなりますが、水分子は不規則なままです。このような固体の水の場合は、光は液体の水と同じように直進します。これがガラス状態で、ガラスはガラス状態です。水を液体窒素で瞬間的に固めると、このような状態になります。
 液体の水では、水分子が自由に動き回り、隣の分子と位置が入れ替わっています。ミルクが白い(Q&A 27)のは、大きな脂肪の粒があるからですが、水分子が衝突するので脂肪の粒子は沈殿しません。脂肪を沈殿させて生クリームを作るには、牛乳を遠心機で分離する必要があります。
 液体の水を冷やしていくと、水分子の動きが鈍くなり、最後には分子は動けなくなり氷になります。しかし、絶対零度になっても、分子は目には見えませんが少しは動いています。低温でも水の分子は少しは動いているのですが、分子の位置が入れ替わることはありません。逆に、水分子の動きが止まった氷でも、少し温度が高くなると、水分子は動き始めますが、隣の分子と入れ替わることはありません。隣の分子と入れ替わって動けば、それは液体になるからです。このように、隣の分子と入れ変わらずに動き始める温度を、ガラス転移点といい、液体になる温度を融点といいます。

 分子がでたらめに並んだ状態ではなく、分子が規則正しく集まると結晶になります。ガラス状態の氷では、分子が動けないので、規則正しく並んだ氷の結晶に変化するのは困難です。最初から一つずつ並べていく結晶化が必要で、水分子を含んだ水蒸気から結晶化する必要があります。雪は水蒸気からできるので、結晶になるのです。
 校庭で遊んでいる子供たちはデタラメに動いて遊んでいますので、集まれ!と言っても、デタラメの並び方のガラス状態にしかなりません。きれいに整列して結晶状態にするには、先生が列の前に立つことが必要です。液晶で、分子をきれいに並べる先生の役目は配向膜で、ポリイミド膜をナイロンで擦って凸凹を作ります。液晶分子は、その凸凹の上に並んで結晶化します。
 結晶は、温度が高くなると、隣の分子と入れ替わり、自由に動くことができ、液体になりますが、この温度は融点です。プラスチックは大きな分子である高分子からでているので、分子が規則正しく集まって結晶になるのは困難で、多くはガラス状態です。ガラスは特別な色の光を吸収することがなく、分子が規則正しく配列することもなくデタラメになっているので方向性が無く、液体と同じような透明で、しかも分子が自由には動けないので硬いのです。


ガラスの成分

 ガラスの主成分は、ケイ素(Si)の酸化物ですが、ケイ素(シリコン)は、地球上には最も多く存在し、その結晶は半導体や太陽電池に使われています。
 ケイ 素の回りに酸素は4個結合できるので、メタン(CH4)と同じく四面体構造になります。メタンの水素を1個メタンに置き換えると、ポリエチレン(-CH2 -CH2-CH2-CH2-)になりますし、水素4個を全てメタンに換えると、ダイアモンドになります(Q&A 67)。酸化ケイ素についても、同じような操作(この場合、水を抜くので縮合です)をすると石英(Quartz)になり、水晶です。

Si(OH)4

四面体

分子モデル(紫がSi)

Si(OH)4の縮合(平面)

Si(OH)4の縮合(立体)

 ガラスは石英の構造がランダムになったもので、石英ガラス、シリカガラスと言った方が正確です。石英を加熱してから冷却しても、元の石英の構造になってしまいますので、不純物を加えて、規則的な構造を壊してやります。すなわち、微量の金属酸化物を加えて、石英の構造を不規則にするのです。例えば、シリカの結晶にアルミニウムが入ると、原子の大きさが異なるので歪みができて、きれいな結晶にはなりません。分子モデルで見てみると、アルミニウムの原子はケイ素よりも少し大きいのです。このようにシリカの結晶が歪むと、透明なガラス状態になります。

シリカとアルミのモデル

分子モデル

歪んだシリカ結晶

 シリカガラスは、以下のような組成をもっています。これらを加えて、シリカが結晶にならないようにすると、透明なガラスができあがるのです。
1. シリカ(SiO2) 70〜73%
2. アルミナ(Al2O3) 0.6〜2.4%
3. 酸化鉄(Fe2O3) 0.08〜0.14%
4. ライム(CaO)  7〜12%
5. マグネシア(MgO)  1.0〜4.5%
6. アルカリ(R2O)  13〜15%

 ガラスは酸には強いのですが、強いアルカリには溶ける可能性があります。ガラスに模様を付けたりするには、フッ酸(HF)を使います。フッ酸はガラスの容器に入れることは出来ませんので、ポリエチレンの容器に入れてあります。フッ酸は蛍石から作りますが、シリコンの結晶であるシリコンウエハーの微細加工に使われます。現在は、超微細加工がされていますので、プラズマエッチングを用います。


ガラスの種類
 ガラスには透明な窓ガラス、不透明な磨りガラス、色の着いた色ガラスがあります。透明なガラスは、光がガラス内を直進するので、外の景色がそのまま内部に入ってきます。しかし、外から丸見えですので、プライバシーを守るためには、不透明なガラス窓にします。
 不透明な磨りガラスにはいろいろなタイプがあり、細かい凸凹で乳白色に見えるもの、大きな凸凹でダイアのようなものなどがありますが、いずれも光が屈折するので光は直進せず、外の景色は見えないが、明るさは確保されています。色ガラスは、光は直進するが赤、緑、青などの可視光線の光が吸収されるので、色が着いて見えるのです。ガラスの表面にカラーフイルムを貼ると、色ガラスのようにはなりますが、フイルムが光をカットするからです。

 透明なガラスでも、成分によって性質が異なるので、いろんなガラスがあります。

ガラスの種類

成分

特徴

一般的なガラス
(窓ガラスなどソーダガラス)
珪酸、ソーダ灰、石灰 硬く、軽い
クリスタルガラス
セミクリスタル(鉛含有率10%前後)
鉛クリスタル(鉛含有率24%以上)
珪酸、炭酸カリウム、酸、鉛 軟らかく、重い、屈折率が高い、透明度が高い
硼珪酸(ほうけいさん)ガラス
耐熱ガラス(耐熱温度差120℃以上)
超耐熱ガラス(耐熱温度差400℃以上)
珪酸、硼酸ソーダ灰 耐熱性がある、硬く、軽い
透明度は低い

 珪酸(けいさん)は、ガラスの主原料で、珪石あるいは珪石が細かくなった珪砂に含まれるものです。ソーダ灰は、ガラスの主原料の珪石、珪砂を溶けやすくするために加えられます。石灰は、ガラスに化学的耐久性をもたせるために加えます。炭酸カリウムは、ソーダ灰と同様、主原料の珪石、珪砂を溶けやすくするために加えます。酸化鉛は、ガラスの屈折率を大きくし、透明感を高めるために、硼酸(ほうさん)は、ガラスの膨張率を下げて、耐熱性を高めるために加えます。


ガラスの機能化

 ガラスにアルミニウムを塗る(真空蒸着)と、外の光を反射して鏡になります。真空蒸着とは、真空状態でアルミニウムを加熱して蒸気にし、ガラスに付着させたものです。水の場合は沸点が低いので、空気中の水蒸気が露となってガラス窓に結露しますが、アルミニウムは沸点が高いので、真空にする必要があるのです。以前は水銀をガラスに塗って鏡を作っていましたが、毒性があるので、アルミニウムに変わりました。すべての波長の光を反射するためには、銀が最も適していますが(Q&A 26)、アルミニウムも銀と変わらない反射率があります。
 アルミニウムを薄く蒸着すると、光が部分的に透過するハーフミラーになります。サスペンスドラマで、警察での取り調べの様子を、隣の部屋から見ているのは、ハーフミラーが使われています。ハーフミラーは、暗いところから明るいところが見えますが、明るいところからは鏡のように自分の姿が見えます。
 アルミニウムではなく、酸化インジウム(In2O3)に数%の酸化スズ(SnO2)を添加した,酸化インジウムスズ(ITO:Indium Tin Oxide)を蒸着すると、透明導電性ガラスができます。光が当たって電気が流れる太陽電池や、電気を流して光を出す有機EL表示材料などには、無くてはならないガラスです。
 穴がたくさん開いたフイルムに写真などを印刷してガラスに貼ると、室内からは外の景色が穴を通して見え、外からは内部が暗いので、写真だけが見えます。これは、シースルーフィルム、アートスルーフイルム("One-Way" Vision media from Continental Grafix.)などと言われています。お店の道路に面したガラスに貼ると、宣伝になり、内部からは外が見えます。


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