黒いもの
黒いものには何がありますか?カラス、闇夜、スス、炭、墨、石炭、鉛筆の芯、自動車のタイヤなどですね。黒は可視光線のすべての波長の光を吸収するので、光が反射して目まで届かないので黒いのですね。
炭は炭素(C)でできています。炭素の原子番号は6ですが、4個の電子で結合します。簡単な分子であるメタン(CH4)では、炭素に4個の水素が結合しています。炭素からでている4っの水素が、空間上で重ならずに配置されるには、四面体の構造になります。4面体では、全ての面が正三角形です。
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メタンの分子モデル
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メタンは正四面体の中心に炭素 |
炭は炭素だけでできていますので、メタンの水素を抜いて炭素を入れて、炭の構造に近づけていきます。炭素が6個で六角形になった分子は、ベンゼンです(A)。隣の炭素とは形式上一重結合と二重結合でできていて、水素が1個結合しています。実際は、炭素は隣の2個の炭素、水素と共有結合しています。炭素は4個の電子が結合に使われますので、1個の電子が余ります。この電子はベンゼン環の中で自由に動き回ることができます(B)。それで、ベンゼンは(A)ではなく、(C)のようにに書くのが、より正しいでしょう。
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ベンゼンの構造
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さらに水素を無くすために、ベンゼンの水素を取って、そこにベンゼンを結合していきますと、ベンゼン環が平面に並んだシートができ、炭の構造になります。炭素にある自由な電子は、このシート上を自由に動き回ることがことができます。それは、金属の性質に近づいていますので、電気が流れる導電性を示すようになり、熱エネルギーのよく伝わるようになります。このような構造では、いろいろな波長の光を吸収することができ、色は黒くなるのです。
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黒鉛のシート構造
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炭は木材を蒸焼きにして作りますが、天然には炭素からできた鉱物があり、これが黒鉛(グラファイト、Graphite)ですが、黒い鉛ではなく炭素からできています。黒鉛は、軟らかくてよく滑るので、潤滑剤や鉛筆の芯に使われています。その構造は、上のベンゼンが広がったシートが積み重なった層状構造です。シートは強くて簡単には壊れませんが、シートとシートの間の結合(van
der Waals力)は弱いので、シートが滑るので、黒鉛は軟らかいのです。鉛筆で紙に字を書くと、芯の黒鉛から滑ったシートが紙について黒い文字が見えます。また、黒鉛は電気が流れるので、電池の電極にも使われます。
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黒鉛の層構造
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フラーレンとカーボンナノチューブ
グラファイトのシートを海苔巻きのように巻くと、チューブができます。いろんな太さのものができますが、太さがナノオーダーのものがカーボンナノチューブ(CNT)です。もちろん、電気が流れますし、いろんな用途が考えられています。ブラウン管(Q&A
06)では、高圧の電気で金属から電子を飛び出させます。しかし、カーボンナノチューブでは、簡単に電子を出すことができるので、省エネのディスプレイを作ることができます。技術的には、カーボンナノチューブを立てて並べるのが簡単ではありませんが。
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カーボンナノチューブ
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末端が閉じたもの
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カーボンナノチューブでは、末端が閉じたものがあります。この場合、六角形を並べただけでは、いつまで行っても閉じることはできません。閉じるためには、五角形が必要になります。六角形と五角形を組み合わせることにより、サッカーボールを作ることができます。炭素でできたサッカーボールがフラーレンです。フラーレンでは、内部に金属を入れることができますので、おもしろい性質がみられます。炭素数が60のものをC60、70のものをC70と言います。
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サッカーボール
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フラーレン
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不活性ガスを充満した容器の中に、黒鉛の電極を二つ並べて置き、直流電流を流すと火花が飛びます。そして、容器の壁にススのようなものが着きますが、それがフラーレンです。また、火花が飛んだ電極にもススが付いているのですが、その中にカーボンナノチューブがあります。
ダイアモンド
ダイヤモンドも化学的には炭素からできているので、黒い黒鉛と同じです。どちらも天然に鉱物として得られる結晶です。しかし、その性質や結晶構造はまったく異なり、ダイアモンドは透明ですが、黒鉛は黒です。このように、成分が同じで結晶構造が異なるものを多形体(polymorphs)といいます。
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ダイアモンドの構造
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構造の1単位
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ダイアモンドと黒鉛は見た目で違いますが、硬さが違います。硬さは、モース硬さ(Mohs Hardness Scale)で1から10で表しますが、黒鉛は硬さが1−2ぐらいで軟らかく、ダイアモンドは硬さは10で、天然物でこれより硬いものはありません。ガラスを切るのには、ダイアモンドが付いたカッターで切断します。黒鉛は軟らかいので、研磨剤や鉛筆の芯に使われています。
黒鉛の構造は、ベンゼンから始まって、水素をベンゼン環で置き換えて作りました。ダイアモンドは、メタンから始まって、水素をメタンに置き換えていきます。残った水素を取って、C-C結合にすると、ダイアモンドになります。
分子の立体構造を見ることは、特にタンパク質や核酸の研究では重要なことです。多くの研究者が構造を研究し、そのデーターを公開しています(日本蛋白質構造データバンク
(PDBj))。New York大学の「Library of 3-D Molecular Structures」にダイアモンドとグラファイトのPDBがありましたので、利用させていただきました。PDBファイルはデーターだけですが、これをChem3D(Cambridgesoft)というソフトを使って画像として見ることができます。ダイアモンドは空間いっぱいに広がっていますが、グラファイトは層状構造になっています。Chem3Dがあれば、画像を回転して見ることができます。
インターネットで立体構造の画像を見るには、JmolとChimeの二つの方式があります。Chimeはプラグインを使うので、登録、ダウンロード、インストールが必要で、Internet
Explorerしか使えないことやMacでは困難であることから、Jmolが主流になってきています。JmolではJava Scriptを使いますので、Java
Runtimeのインストールが必要な機種がありますが、インターネットで簡単に導入できます。
ダイアモンドとグラファイトの構造を、JmolとChimeで見れますので、それぞれをクリックしてください。ただし、画像を読み込むのに少し時間がかかりますが、しばらく待ってください。
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ダイアモンドの構造
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グラファイトの構造
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硬さの秘密は、その構造をみれば分かります。ダイアモンドでは炭素の4つの結合は炭素間でできています。ダイアモンドでは、黒鉛のように自由に動き回れる電子が無いので、電気が流れない絶縁体です。このようにダイアモンドは共有結合の塊ですから、強くて硬いのです。また、可視光を吸収するような二重結合もありませんので、透明です。
さて、炭はどのような構造でしょうか。炭はダイアモンドと黒鉛の中間の構造だと考えられています。結晶ではないので、アモルファス炭素(無定形炭素)と言われています。カーボンブラック、活性炭、プリンターの黒インク、トナー、墨汁などに使われているもので、工業的には重要なものです。
自動車のタイヤが黒いのは、カーボンブラックが混入されているからです。タイヤのゴムは収縮が繰り返されて熱が出ますが、カーボンブラックはその熱を伝えて外に出す役目をしています。高速道路を走って、サービスエリアで休んだとき、タイヤを触ってみると、タイヤの熱さが分かります。
電気カーペットは、プラスチックシートの中に、カーボンブラックが入っています。電気を流すと熱が出て暖かくなります。
テニスのラケット、ゴルフクラブ、スキーなどには、炭素繊維(カーボンファイバー)が入って強度を増しています。炭素繊維は、アクリル繊維などを蒸し焼きにして作ります。また、原油から石油を取った残りは、黒いピッチになりますが、これを繊維にしても炭素繊維ができます。プラスチックの強度を増すためには、ガラス繊維や炭素繊維が使われ、繊維強化プラスチック(FRP:Fiber
Reinforced Plastics)と言われます。
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