備長炭
最近、炭はあまり使わなくなりましたが、焼肉や魚を焼くのに、炭が使われています。また、家庭では最近あまり使われませんが、昔は暖房のために火鉢やコタツに、炭はよく使われました。現在は、脱臭剤などや、炭の入ったシャンプーなどが使われています。
木材を酸素存在で燃やすと、炭酸ガスと水になり、木材に含まれる無機物質が灰となって残ります。酸素の少ない状態で燃やすと、蒸焼きとなり、黒い炭素になりますが、これが炭です。
どのような木材でも蒸焼きにすれば炭になりますが、軟らかい木材では、できた炭も軟らかくボロボロになります。備長炭はウバメカシを使いますが、非常に硬い木です。樫の木は堅いので、炭にすると堅い備長炭ができます。
紀州備長炭
和歌山市から車で1時間程南に行くと、高速道路は終点となり、南高梅の梅干しで有名なみなべ町(旧南部川村)があります。みなべ町は、紀州備長炭でも有名で、南部川に沿って、山の中を龍神温泉に向かうと、「紀州備長炭振興館」があります。
みなべ町の南は、田辺市ですが、江戸時代にここの炭問屋だった備中屋長左衛門が、「備長炭」と名付けたとされています。田辺市には「紀州備長炭記念公園」があります。細い山道ですが、「紀州備長炭振興館」から「紀州備長炭記念公園」まで、山を越えて1時間ぐらいで行けます。
紀州備長炭振興館
(http://www.iip.co.jp/minabegawa/MINABE/min_sinko.html)
紀州備長炭振興館は、山に囲まれた所にありました。紀州備長炭の展示と説明があり、製品の販売もされています。訪れた時は桜が咲き、緑がきれいな山に囲まれたいい所でした。
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紀州備長炭振興館
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備長炭は和歌山県産以外にも、宮崎県の「日向備長」、高知県の「土佐備長」などが知られてますが、カシノキを原料とし、一定の硬度のものを「備長炭」と呼んでいます。和歌山県産のものは「紀州備長炭」と呼ばれています。
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各地の備長炭
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販売されている紀州備長炭
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炭は原料の木の種類や焼き方でいろんな炭になりますが、大きく分けて白炭と黒炭があります。炭窯の中で火口を蓋をして蒸焼きにすると黒い炭になりますが、軟らかいですが直ぐに火がつくので、バーベキューなどに使われています。一方、炭ができた段階で火口を開けて酸素を入れ、炭を外に出して灰をかけて冷やすと、硬い炭ができます。灰をかけたので表面が白くなり、白炭と呼ばれます。備長炭は白炭で、硬いので叩くと金属性のキンキンという音がして、風鈴にもなっています。
カシの木の白炭で、炭素90%以上、精煉度(炭化の度合い)0〜2度のものを、備長炭の規格としています。備長炭の組成は、炭素92〜3%、灰分2〜3%、揮発分4〜5%位です。また、木炭表面の電気抵抗を測り、0〜9の10段階で表示し、木炭精煉計により測定した炭化度で、電気抵抗の指数で示しています。電気抵抗は炭化温度に関連し、炭化温度を上げていくと電気抵抗は少なくなり,700℃ぐらいで炭化した炭はかなり電気が伝わり、1000℃位で炭化した炭(白炭)は電気の流れはさらによくなります。
紀州備長炭振興館のすぐ近くの山に、紀州備長炭の炭焼き窯がありました。火を入れて前の方で焼き、その後土で蓋をして、1週間ぐらい蒸し焼きにします。原料のウバメガシは、まっすぐな木は無く、曲がったものです。細いのは枝で、太いのは幹ですが、約25年ぐらい経っています。
備長炭以外にも、竹や梅の種を焼いて、竹炭、梅炭が作られていますが、この備長炭の窯で焼きます。
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炭焼き窯
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ウバメガシ
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樫の木はいずれも堅い木ですが、ウバメガシは葉が小さく、成長が遅い木です。それだけ身が締まった堅い木なのです。常葉樹ですので、冬でも緑ですが、桜と並んだウバメガシはきれいでした。
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ウバメガシ
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ウバメガシと桜
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紀州備長炭記念公園
(http://www.city.tanabe.lg.jp/sanson/bintyou/hakken.html)
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紀州備長炭記念公園内の紀州備長炭発見館
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紀州備長炭記念公園は、JR紀伊田辺駅から13キロ龍神温泉に向かって山に入った所にありますが、今回はみなべ町から山越えで行きました。公園内に「紀州備長炭発見館」があって、備長炭の説明があり、備長炭が発見された所だと説明しています。公園内に炭窯が5-6基ほどあって、焼いていました。
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炭窯
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炭窯上部
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ウバメガシは常緑の木で、硬い葉を持っていて、樹皮もごつごつしていて縦にひび割れしています。枝は曲って全体にこんもりした感じです。他の樫の木に比べて葉は小さく、成長は遅いようで25年ぐらいかかります。良い炭にするには乾燥は禁物で、切り出してから1週間以内に焼く必要があります。蒸し焼きにする必要がありますが、乾燥すると燃えてしまうからです。特に日射は乾燥するので避けなくてはならず、切り出した木には覆いがされています。
木が曲っているので、炭焼きの窯に密に入らないので、切れ目を入れ三角の楔(くさび)で真直ぐにしますが、木が硬いので大変な仕事です。
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近くのウバメガシ
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切り出されたウバメガシ
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切れ目を入れ、楔を刺してある
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真っ直ぐになったウバメガシ
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ウバメガシを窯に入れ、火を付けて徐々に乾燥します。その後原木が炭化したら、窯の口を開けて、大量の空気を送り込みます。窯の温度が
1000〜1200℃以上になったところで、真っ赤になった炭を窯から掻き出し、灰をかけて消します。灰が付くと白く残るので、白炭と言い、白炭の最高級品が備長炭です。
木の成分と炭
木材の主成分はセルロースで、これから紙が作られます。木材中のセルロースは約50%で、ヘミセルロース、リグニンがそれぞれ、20−30%含まれています。リグニンはセルロースの細胞を接着しているもので、芳香族系のポリフェノールです。切ったばかりの木材は白っぽいですが、時間が経つと茶色になってきますが、ポリフェノールが酸化して、タンニンになったためと考えられます。
木材の模式図
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リグニン
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ヘミセルロース
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セルロース
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木材は細胞からできていますが、細胞壁はセルロースです。セルロースは直線上の高分子で、水素結合により互いに結合して束になって、結晶になっています。この堅いセルロースに巻き付いてヘミセルロースがあり、セルロースの束を結合しています。ヘミセルロースの構造はセルロースと似ていますが、直線的ではなく結晶性ではありません。
セルロースやヘミセルロースは糖ですが、リグニンはベンゼン環を含んだポリフェノールです。やはり、セルロースを結合する役割があります。リグニンは細胞壁や細胞間にあり、セルロースを接合したり、細胞を接合したりする役目をしています。リグニンの構造は複雑ですが、図に示したのはリグニンの一部の構造です。
さて、この木材を燃やしてみます。セルロースやヘミセルロースは酸素を成分に含んでいますのでよく燃えますが、セルロースは結晶性ですので、燃えにくい構造です。一方、リグニンはベンゼン環ですのでやはり燃えにくいです。ベンゼン環を含むプラスチックはポリスチレンで、発泡ポリスチレンとしてカップラーメンの容器に使われていますが、燃やすと黒い煙が出ることから、燃えにくいことが分かります。
このこれらのことから、100℃で水が蒸発し、180℃付近で、まずヘミセルロースが分解すると考えられます。さらに、275℃でセルロースが分解し、次いで、350℃でリグニンが分解すると考えられます。しかし、炭になるには、400℃ぐらいの加熱が必要でしょう。
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備長炭の電子顕微鏡写真
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一般的な木の断面
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備長炭の電子顕微鏡写真を見ると、大きな孔があいていますが、これは水が通る導管です。小さな孔の部分は細胞ですが、他の木に比べて密で、ウバメガシが堅い木であることがわかります。一般的な木材は、孔が一杯で、隙間が多いものです。備長炭の小さな孔に、有機物質が入り込み、特に悪臭を持った物質の時には、消臭剤となります。
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