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   メラミンとメラニン?
 

 

 メランとメランは、名前は似ていても構造は全く異なります。メラニン(melanin)はQ&A24にあるように、髪の毛や皮膚の黒や赤の色素で、構造は複雑です。一方、メラミン(melamine)は耐熱性のメラミン樹脂の原料になる化学製品です。他にも紛らわしい名前としては、シリコンとシリコーンなどがあります。シリコンはケイ素で、Si原子や金属として知られています。また、シリコーンはプラスチックやゴムなどのシリコーン樹脂です。
 メラミンは牛乳に混入されていたとして問題になりました。牛乳の成分を偽装して水で薄められましたが、牛乳に含まれるタンパク質の量を測定すれば、水で薄めたことは分かるはずです。最も簡単な分析方法はケルダール法(Kjeldahl method)を用いた窒素の分析です。
 試料を濃硫酸で加熱して、窒素成分を安定な硫酸アンモニウム((NH4)2SO4)に変えます。濃硫酸は強い酸化剤ですから、砂糖のような炭素(C)と酸素(O)と水素(H)を含む化合物は炭酸ガス(CO2)と水(H2O)になり、アミノ酸やタンパク質は窒素(N)があるので、さらにアンモニアに分解し、硫酸アンモニアになるのです。その後、アルカリ性にして加熱し、発生するアンモニア(NH3)を酸の水溶液で捕集し、滴定によりアンモニア量を決定します。メラミンには6コの窒素が含まれるので、メラミンを混入させておけば、多くのタンパク質が含まれているかのように分析されます。
 この方法では、メラミンとタンパク質を区別することができません。しかし、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いると、簡単に分析することができます。

メラミン

シアヌル酸

シアヌル酸メラミン


 メラミンにはそれほど毒性はありませんが、膀胱や腎臓に結石ができたために大きな問題となりました。メラミンの合成工程で副成したシアヌル酸メラミンが水素結合により結びつき、メラミンシアヌレート(melamine cyanurate、別名:シアヌル酸メラミン)ができ、結石になったのです。シアヌル酸メラミンとは、メラミンとシアヌル酸からなる有機塩で、メラミンとシアヌル酸が水素結合した構造と考えられている。雲母状の結晶構造を示し、工業的にも合成されていて、耐熱性の潤滑剤として使われています。シアヌル酸とメラミンからできますが、水素結合だけですから、反応によってできたものではありません。
 シアヌル酸とメラミンが水素結合しただけですが、膀胱や腎臓内部が水素結合の生成に適していたからです。水素結合は、タンパク質や核酸では重要な分子間結合(Q&A50)ですが、水が存在する環境では、そんなに安定なものではありません。核酸の重要な成分である核酸塩基であるアデニンとチミンを水に溶解しても、核酸塩基同士は簡単には水素結合を作りません。まず、たくさんある水との水素結合ができるからです。では、核酸ではどうして安定な水素結合ができるのでしょうか?最も大きな理由は、核酸が高分子だからです。

ファスナー

アデニン(A)とチミン(T)の連続した水素結合

 ファスナーを考えてください。歯(エレメント)が1コだけですとすぐに外れますが、歯が多ければ、しっかりと結合しています。水素結合のエネルギーは小さいのですが、多くなると大きなエネルギーになります。もう一つは水素結合が存在している環境で、核酸の周囲はタンパク質や脂肪があって、水が少ない状態になっているのです。食塩は水に良く溶けますが、有機溶媒には溶けず安定な結晶が保たれます。このように水に弱い水素結合でも、水のない状態や連続した状態では強い結合になるのです。


メラミンの構造と合成

 メラミンやシアヌル酸の基本骨格は炭素3コと窒素3コからなる六角形のトリアジン環です。シアヌル酸は、互変異性体を形成しています。左の構造では6角形はベンゼンのように共役した平面構造ですが、右は共役していなくて平面からずれて、折れ曲がった構造です。実際の構造は二つの中間的なものと考えられます。ただしシアン酸(HO-C≡N)はイソシアン酸(H-N=C=O)との互変異性を示し、気体もしくは非プロトン溶媒中ではイソシアン酸の形で存在する分子の方が多いのです。水素結合が形成しやすい液体状態やプロトン溶媒中ではシアン酸の形で存在する分子の方が多くなります。

シアヌル酸の互変異性

 メラミンは尿素を加熱して合成しますが、アンモニアを除いていくとシアヌル酸になります。また、シアヌル酸を加熱すると、シアン酸が得られます。シアヌル酸の構造を眺めると、シアン酸が三つ集まったものだと分かります。また、シアン酸とアンモニアから尿素を合成することができ、Friedrich Wo"hlerが初めて無機化合物から有機化合物を作ったとして有名な実験です。

尿素の熱分解でシアン酸ができる

シアン酸が3コ反応するとシアヌル酸ができる

 尿素は(融点:132.7 分解)、人間の手によって初めて無機化合物のみから合成された有機化合物として、有機化学の歴史上非常に重要な化合物です。 1828年にその合成に成功した人物は、フリードリヒ・ヴェーラーで、彼は、シアン酸アンモニウムの水溶液を加熱して尿素が生成することを確認しました。この合成法はヴェーラー合成と呼ばれています。

NH4OCN → H2NCONH2

 尿素を無触媒で約200℃に加熱することにより、アンモニアを発生させながらシアヌル酸(cyanuric acid)、アンメリン(ammeline)、アンメリド(ammelide)などからなる粗製シアヌル酸が合成されます。これを鉱酸(塩酸、硫酸、硝酸など)で化学反応処理することにより、アンメリン、アンメリドをシアヌル酸に変換して高純度のシアヌル酸を製造するのです。

アンメリン

アンメリド

シアヌル酸

 シアヌル酸はそのままで使用されることはほとんどなく、大半が塩素と反応させて塩素化シアヌル(cyanuric chloride)として使用される。塩素化シアヌルはプールなどの殺菌剤として使用される。 他の用途としては量は少ないが、各種中間体の原料、メラミンと反応させて、メラミンシアヌレートの原料などとして使用されている。

シアヌル酸→塩素化シアヌル→メタノール(CH3OH)との反応

プリンとピリミジン(核酸塩基)

 遺伝子であるDNAには、4種類の核酸塩基が含まれ、水素結合により遺伝情報を伝えています。

分類

プリン環

ピリミジン環

塩基

アデニン

グアニン

チミン

シトシン

ウラシル

略号

A

G

T

C

U

構造

 DNAでは、アデニンとチミン、グアニンとシトシンが水素結合で塩基対を作ります。RNAでは、チミンの代わりにウラシルが使われます。他の組み合わせでも水素結合は可能と思われますが、それぞれの性質(電子状態)で、水素結合する相手が決まります。アデニンは酸性でプロトンが結合してカチオンになり易いのですが、チミンはアルカリ性でプロトンが取れてアニオンになり易いのです。したがって、単純な水素結合ではなく、プラスとマイナスの静電的な要素も加わった水素結合であるといえます。アデニンはグアニンとも水素結合を作りますが、チミンとの水素結合に比べて弱いので、離れやすくなっています。DNAでは、その他にも構造的な要素もあり、DNA中でアデニンとグアニンが水素結合を作ると、鎖の距離が伸びて、不安定になります。遺伝情報を伝えるためには間違いは許されませんので、このような不安定な塩基対は壊れてしまい、安定な塩基対だけが残ります。

チミン(T)とアデニン(A),
シトシン(C)とグアニン(G)の塩基対

 アデニンとチミンの水素結合は2本ですが、グアニンとシトシンの水素結合は3本ありますので、当然グアニンとシトシンの方が安定です。シアヌル酸ーメラミンの構造を見ると、さらに水素結合が増える可能性があると考えられます。このようにして、さらに水素結合が増えて、強固な会合体ができ、結石になるものと思われます。


核酸塩基の合成

 地球が生まれてから、何年もして生物が生まれましたが、その前に核酸やタンパク質ができているはずです。核酸が先かタンパク質が先かは、卵が先か鶏が先かと同じように分かりませんが、最近核酸にも酵素のような機能を持ったものが見つけられ、タンパク質よりも核酸が先だとの説が有力になってます。
 地球の最初は酸素が無く青酸ガスで覆われていたと考えられています。実際、火山や海底火山の付近で、酸素ではなく青酸で生きている生物が見つかっています。青酸ガスを高温高圧で反応させると、核酸塩基の一つであるアデニンができ、これは特許にもなっています。
 生物の身体の中でもアデニンができますが(生合成)、アミノ酸などを原料として多段階で酵素の働きによって合成されます。最終的に、鰹節のうま味であるイノシン酸が作られ、そこからアデニンなどに変換されます(福岡大学 寺田先生)。

アデニンは6個の青酸からできている

ウラシルは尿素とアクリル酸からできている

 また、尿素や乳酸をポリリン酸中で加熱すると、やはり核酸塩基のウラシルやチミンができます。窒素や酸素などが入った環状化合物は複素環といいますが、アデニンやグアニンは六員環と五員環が結合したプリン環と呼ばれ、ウラシル、チミン、シトシンは六員環のピリミジン環といわれます。おそらく最初は青酸が反応して核酸塩基のプリン環ができ、ついで酸素がでてきて青酸と反応してシアン酸や尿素ができ、ピリミジン環の核酸塩基ができたのでしょう。

 核酸ではアデニンとチミンは水素結合で結ばれていますが、窒素や酸素が多いのでどこで水素結合するかが問題で、間違った水素結合も可能なような気がします。実際に核酸での遺伝情報の伝達では、間違った水素結合で、間違った情報が伝わるとされています。その場合、エネルギー的に微妙に不安定になりますが、その違いが認識されて間違った結合は削除されるようで、結果として遺伝情報は間違いなく伝わります。ただし、活性物質や放射線などは情報を間違えさせて癌を誘発します。


メラミン樹脂

 シアヌル酸メラミンは水素結合で結ばれていますが、共有結合で結ばれたのが、メラミンーホルムアルデヒド樹脂(簡単にメラミン樹脂といわれます)。メラミンではなくフェノールとホルムアルデヒドの場合は、フェノールーホルムアルデヒド樹脂(フェノール樹脂、ベークライト、石炭酸樹脂とも言われます)。三次元的に結合するので、耐熱性、難燃性に優れた樹脂です。熱を加えても柔らかくはなりませんので、熱硬化性樹脂と言われます。
 メラミン樹脂はメラミンとホルムアルデヒドとから直接製品とするのではなく、両方をアルカリ条件下で縮合させたメチロールメラミンを作り、それを加工品原料とします。メチロールメラミンは加熱すると重縮合を起こし、網目状に架橋することで熱硬化樹脂となります。

メラミン→メチロールメラミン→メラミン樹脂


 最近、白いメラミン樹脂フォーム(スポンジ)が売られています。たわしやスチールウールの様に研磨材や食器・調理器の汚れ落としに利用される。洗剤なしで汚れを落とすことが出来、(従来のスポンジで落とすことの出来なかった)茶碗やマグカップに付着した茶渋などを落とすのに最適である。メラミンフォームは微細な繊維の集合体で、髪の毛の一万分の一の細かい繊維が、いわばブラシの毛先となって汚れを掻き出し、繊維内に取り込みます。

メラミンフォーム


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