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   海が青く見えるのはなぜですか?
   


 Q-25で、「空が青く夕焼けが赤い」理由を説明し、海が青い理由も簡単に書きました。「水の色が青いのは空の青さが映っているからだと云う人がいますが、これは誤りです。」というホームページがあちこちにあり、Q-25の記述は間違いではありませんか?というご指摘を受けました。そこで、海が青く見える理由をあらためて書いてみます。

駿河湾からの夕焼けの富士山

海の夕焼け

 海の色は闇夜では黒ですが、太陽の光があると青く見えます。海の色は、見る角度、海水の成分、海底の状況などにより変化してきます。太陽の光が海に当たり、その光の行方を考えてみます。
 光が海面に直角に当たれば反射はありませんが、斜めに当たれば反射します。海は波があって反射が分かりにくいのですが、穏やかな湖などの場合にはよく分かります。富士山が駿河湾に写っている写真は見かけたことはありませんが、富士五湖の湖に綺麗に写っている写真を見られたことがあると思います。波の立った海でも、夕日が海に反射して金色に輝くのを見たことがあると思います。水面での光の反射は角度に依存しますが、結構強いのです。したがって、空の青は海に写って海は青く見えます。

 反射と同時に光は海水の中にも入ります。海水に光の波長より大きな浮遊物の粒子があれば、光はこの粒子で反射(散乱)し、白く濁って見えます。粒子で反射した光が海面まできて、外に出るからです。ただし、浮遊物の粒子が 深い海にあれば、青い光が出てきます。
 光の波長より大きな浮遊物がなければ、光はさらに下に進み海底に達します。海底が珊瑚礁のように白ければ光はそこで反射して、ふたたび海面に出てきます。(白は光の全ての波長を反射します。)海底が黒い泥や、非常に深い海では海底からの反射はありません。
 ここで、これまでのことをまとめると、(1)海面からの反射、(2)海中に入射した光の浮遊物からの反射、(3)海底からの反射、の3つの光が合わさって海の色になっていることが分かります。

海面での反射、浮遊物での散乱、海底での反射

 次に、海に潜って海の色を見てみましょう。海に潜って珊瑚や魚を見られた方もおられるでしょうが、観光潜水艦で手軽に海の中を見ることができます。写真を撮って、現像してみると全体が青くなっていて、せっかくの綺麗な海が台無しだったことがあるでしょう。海の中は青い世界です。
 南の海で綺麗な熱帯魚の写真を撮るとき、浅い海では太陽の光が弱くないので、フラッシュなしでもいいのですが、深くなるとフラッシュが必要です。弱くなった太陽の光をフラッシュで助ける必要があるのです。
 海が青いのは空が青いのと同じように、青い光が散乱するからだと考えている人がいます。青い光が散乱するのはレーリー散乱で、光の波長よりも小さな粒子がある場合です。もし、海中に小さな粒子があってレーリー散乱が起これば、たしかに青く見えます。この場合は、コップに入れた海水も青く見えます。青い光はレーリー散乱を起こし、深い海には届きません。しかし、赤い光は深い海にも届くはずです。これは、夕焼けが赤い理由を考えると理解できます。もしこれが本当なら、深い海でフラッシュ無しでも赤い熱帯魚の写真が撮れるはずです。また、赤い光が白い珊瑚礁の海底に届くと反射して海面に出てきますので、海は赤く見えるでしょう。実際はそうではないので、やはり海の中が青いのは次に述べる赤い光が海の水に吸収され、水に吸収されない青い光だけが届いているからです。

観光潜水艦からの写真

 では、海の中はどうして青いのかを考えてみます。その前に突然ですが、電子レンジでどうして水が温まるのかを考えます。電子レンジはほとんどの家庭にあると思いますが、なんでも温まるのではありません。陶器のカップに水を入れてチーンすると、水は温まりますがカップは温まりません。

 電子レンジは英語では microwave ovenですが、名の通りマイクロウエーブのオーブンなのです。マイクロ波は1mmから1mまでの波長の電磁波で極超短波と呼ばれています.
 電磁波は光と同じ波ですから、波長(λ)は波の山から山の長さです。電磁波の速さは光の速さなので、1秒間に何個山があるかを表す周波数に直す(周波数=光速度/波長)と、300GHzから300MHzになります。[G(ギガ)は109、M(メガ)は106、k(キロ)は103です] ラジオやテレビに比べマイクロ波はこれらよりもさらに短い波長の電磁波です。しかし、人間の目に見える可視光線よりはずっと長い波長です。

 

電子レンジ

 

波長の異なる波

 電子レンジに使われている電磁波は2,450 MHzに決められていますが、この周波数帯は無線LANなど通信用に多く使用され過密状態になっていますので、通信障害を起こす恐れがあるからです。2,450MHzを波長に直すと12.2 cmです。
 電磁波には、電波、マイクロ波、赤外線、可視光線、紫外線、X線、γ線があり、右(下の表では下)に行くと波長は短く、周波数(振動数)は大きく、エネルギーも大きくなります。[n(ナノ)は10-9、μ(マイクロ)は10-6、m(ミリ)は10-3です。]

電磁波の分類

電磁波

波長

周波数

 

電 波

超長波(VLF) 10〜100 km 3〜30 kHz  
長波(LF) 1〜10 km 30〜300 kHz 船舶・飛行機の通信
中波(MF) 100 m〜1 km 300 kHz〜3 MHz AMラジオ放送
短波(HF) 10〜100m 3〜30 MHz 短波放送
超短波(VHF) 1〜10 m 30〜300 MHz FM放送、VHFテレビ放送
マイクロ波   1 mm〜1 m 300 MHz〜300 GHz UHFテレビ、レーダ、携帯電話、電子レンジ、無線LAN
赤外線   770 nm〜400μm   赤外線吸収スペクトル
可視光線   380〜780 nm   可視吸収スペクトル
紫外線   100Å〜400 nm   紫外線吸収スペクトル
X線   0.1〜100Å   レントゲン写真
ガンマ線   0.1Å以下   放射線


 電子レンジのエネルギーが水に当たると水の分子がエネルギーを吸収します。水分子がエネルギーを吸収するとなぜ温かくなるのでしょうか?水の分子は動き回ったり、回転したり、振動したりします。また、O-Hの結合が伸び縮みしたりします。エネルギーの無いときはゆっくり動いていますが、エネルギーが沢山あると激しく動き回り、ぶつかったりします。そして、熱エネルギーとしてお湯の入ったカップに与えられ、カップが熱くなります。さらに、カップの熱エネルギーが手に与えられると熱く感じられます。
 そのような水のエネルギーの大きさが、電子レンジの周波数のエネルギーに相当しますので、電子レンジのマイクロ波のエネルギーが水分子に与えられるのです。与えられるエネルギーは、ちょうどぴったりでなくてはならず、大きくても小さくても吸収されません。携帯電話の番号はある周波数に対応していますが、その周波数の電波が来たときだけ、携帯電話が鳴ります。他の人の携帯の電波が来ても周波数が違うので電話はなりませんが、これと同じです(共鳴といいます)。

水分子の運動

水の吸収スペクトル

 電子レンジのマイクロ波よりも波長が短くなると、赤外線(Infrared)です。赤外線は赤の波長よりも長く、人の目には見えない波長のものです。電気ストーブやこたつの赤い光は赤外線を含んでいます。手をかざすと、赤外線が手の水分やタンパク質にエネルギーが与えられ、温かくなります。電子レンジでは水だけがエネルギーを吸収し、タンパク質は吸収しませんが、赤外線はタンパク質も吸収します。水分の少ない魚の干物は、電子レンジではなかなか熱くなりませんが、赤外線が出ているオーブンだと直ぐに熱くなります。水の吸収スペクトルを見ると、水分子が吸収するエネルギーはほとんどは赤外線の領域ですが、少し可視光線の赤色の領域にかかっています。したがって、赤い光が水に吸収されるのです。

 吸収スペクトルとは、どの波長の光をどれだけ吸収しているかを示すもので、その大きさが吸光度です。上の水の吸収スペクトルでは、可視光線の部分は吸光度が小さいですが、赤の部分からだんだん大きくなり、赤外線の部分で大きくなります。赤外線より波長が長くなるとマイクロ波ですので、マイクロ波でも吸光度があってマイクロ波を水が吸収します。
 太陽の光には、波長の短い紫から波長の長い赤まであります。その赤の波長はやはり水の分子によって吸収されます。赤い光は電子レンジのマイクロ波に比べて波長が短くエネルギーの高いものですが、水のエネルギーのうちエネルギーの高いO-Hの伸縮などに使われます。しかし、青の光はもっと波長が短くエネルギーが高いので、水の分子に相当するエネルギーのものがなく、吸収されません。

太陽光のスペクトル

 さて、これで海の中は青い理由がわかりました。太陽の光のうち波長の長い赤い光が水に吸収され、青い光だけが通過して海中深くまで進んで行くのです。コップに入れた水は透明で青くは見えませんし、浅い海も青くはないので、吸収される赤い光は微量であることは分かります。

浅い海は透明

深い海は青い(珊瑚礁の海)

 さて、珊瑚礁の海の色はコバルトブルーでとても綺麗ですが、海底に進んだ青い光が白い珊瑚礁で反射されて海面に出て、海面に映った空の青と一緒になって見えるので、あんなに綺麗に見えるのです。曇っていて空が青くなくても、白砂で反射した光が海面に出て、珊瑚礁の海は青く見えます。

 

 
   
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