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   いろいろな質問(色素その4)
    
 天然色素は合成色素のように染めることを目的に合成・精製されていないので、耐性や鮮明さが合成色素に比べて劣っているという話は聞いたことがありますが、ほんとでしょうか?
 その通りです。天然色素は「生きている時」の色ですが、生物から取りだした段階で色素は生きているときとは状況が異なっています。
 生きている植物や動物は、目的があってその色を出しているのです。必要がなければ、色は無くなります。花の色は昆虫を引きつけるための色です。受粉して必要が無くなれば、色は消えてしまいます。色素は光を吸収してどんどん分解しますが、必要な時にはどんどん作っているのです。
 天然色素は植物の色そのものを使っているのではなく、安定になるように加工しています。加工とは抽出したり、発酵、酸化、加熱などにより安定な色素にしています。藍の加工などを写真でご覧になったと思います。茜は植物の根から採りますし、紅花も発酵処理をしています。
 一方、合成色素は色、耐性などを考えて化学的に合成した物で、耐性があって鮮やかな色がでます。天然色素、合成色素は、目的、状況によって使い分ける必要があります。車を買うときには、荷物を運ぶのか、家族が乗るのか、高速道路を走るのか、山道を走るのかなどを考えて車を選ぶのと同じ事です。
 
 「緑」は他の天然色素よりもやっかいで、緑の葉は無尽蔵に存在するにもかかわらず、葉を煎じても緑には染まりません。はじめに黄色で染めて、次に青で染めるといった具合です。
 なぜ、緑に限ってそうなってしまうのでしょうか。クロロフィルの不安定さに原因があるとすれば、その不安定さは何に起因しているのでしょうか。
 自然には多くの緑がありますが、いずれもクロロフィルです。染料として簡単に使えそうですが、非常に不安定です。
 理論上はクロロフィル以外の緑の色素があるはずですが、たまたま見つかっていないだけだと思います。
 クロロフィルはマグネシウムの含まれた金属錯体です。太陽の光を吸収してエネルギーに変えるのにはいいのですが、そのエネルギーが間違って自分を分解するのに使われてしまうのです。ですから不安定なのです。
 クロロフィルはちょうど緑の光を反射するのですが、染料としては緑を反射するものでなくても、黄色と青を反射する(緑になる)ものでもよいので、安定な黄色と青色の合成色素を混合して緑の染料を作っているのです。
 天然の緑を使って染め物に使うのは楽しいですが、その時はクロロフィルではなく、天然の黄色と青色を混合して染めるとよいと思います。(クチナシ青+クチナシ黄)や(クチナシ青+ベニバナ黄)などで緑の色素にしています(調合製品)。
 
 「増感色素」とか「光増感剤」と呼ばれるものには、どのような色素があるのでしょうか? 
 光増感剤となる色素は、いろいろあります。光増感剤とは、反応する物が光を吸収するのではなく、光増感剤が光を吸収し、そのエネルギーが反応する物に移動して、反応が進む物です。化学反応の触媒みたいなものですね。
 光増感剤を利用するに当たって、考えなくてはいけないことは;
 (1)どのような光反応に利用するか?
   一般的には増感反応を使うのは三重項反応ですが、その三重項エネルギーはどのくらいかを知る必要があります。
 (2)どのような波長の光を照射して反応を行いたいのか?
   レーザー、白熱灯、ハロゲンランプ、キセノンランプ、水銀灯、などいろんな光源があり、その中で使用する波長はどれかを決める必要があります。これによって、増感色素の範囲が狭まってきます。

 たとえば、トランスースチルベンからシスースチルベンへの異性化を水銀ランプで行おうとします。異性化は313 nmで進行しますが、水銀ランプの366 nmでは進行しません。そこで、ベンゾフェノンを光増感剤として用いると、366 nmの光を吸収して励起一重項になり、ついで、励起三重項になります。ベンゾフェノンの励起三重項状態が、トランススチルベンの基底状態に衝突してエネルギーが移動し、トランススチルベンは励起三重項になり、異性化反応が進行しシススチルベンになります。
 したがって、増感色素は、(1)ランプの出している波長を吸収する必要があり(吸収スペクトルから知る)、
 (2)励起三重項状態のエネルギーが反応する物質の励起三重項エネルギーより高い(リン光スペクトルから知る)必要があります。
 これに合致した色素ならなんでもよいことになります。
 
 構造的に「光増感剤」として作用するにはどういう部位を持たなくてはいけないのか? どういう部位(部分構造)を持つと光増感剤として作用するようになるのか教えて下さい。
 光増感剤として要求される構造は、(1)光源の光を吸収すること(励起一重項が一致する)、(2)励起三重項が効率よく励起三重項に移動できること、(3)励起三重項のエネルギーが反応する化合物のエネルギーより少し高いことなどです。とくに、(2)が重要で、励起一重項のエネルギーが分子の運動で失われてしまうような鎖状の化合物では、励起三重項に移れません。さらに、励起状態から容易に分解や反応する色素もだめです。
 なお、このように、励起分子からエネルギーが移動する場合と、電子が移動する場合もあります。
 
 先日、食用色素についての実験をしました。その時、色素を染色用のウールに染色しました。色素を溶出する時はアンモニア水中で行い、色素を染色する時は塩酸中で行いました。
 なぜ、色素はアルカリ性で溶出され、酸性で染色されるのでしょうか???

 どんな種類の食用色素かわかりませんので、食用赤色40号としてお答えいたします。
 まず、食用赤色40号の化学式を見る必要があります。酸性、アルカリ性で溶解性が異なるのは、構造式の中にある-SO3Naのせいです。

 酸性では-SO3H、アルカリ性では-SO3- + Na+となっています。乾燥させて固体にすると、構造式のような-SO3Na となります。これは、カセイソーダ(NaOH)でアルカリ性にした場合で、アンモニア水では-SO3- + NH4+ となります。このアルカリ性の水溶液に塩酸を加えると、-SO3H + NaClとなります。
 水に溶けるか溶けないかは、イオンになれるかどうかが重要です。食塩(NaCl)を水に加えると、Na+ + Cl-と、イオンになり水がイオンを取り囲んで溶けるのです。
 油を水に加えても、イオンになれないので、水と付くことができず、油だけで集まります。ですから、油は水に溶けないのです。
 ところで、酸性での-SO3Hは、油みたいのもので、ほんの少ししかイオンになれないのです。一部は、-SO3- + H+となりますが、酸性ではH+が多いので、ほとんど-SO3Hです。ですから、酸性では食用赤色40号はほとんど水に溶けないのです。
 砂糖はイオンになりませんが、水に溶けます。しかし、イオンになる食塩には負けます。砂糖には、-OHがあります。アルコール(CH3CH2-OH)と同じです。-OHも水(H-OH)と似ていますので、水と付きやすく溶けるのです。
 食用赤色40号の話をしましたが、赤色3号では、-SO3Naではなく、-COONaになってます。この場合も、同じ理由で、酸性では溶けにくく、アルカリ性でよく溶けます。酸性では-COOHでイオンにならず、アルカリ性では-COO- + Na+とイオンになります。

 
 製品の成分表に英語表記で「FD&C Yellow♯5,Yellow♯6,Red♯40 orBlue♯1」とあります。メーカーの説明では、食用色素を使用しているとのことですのでFD&C は食用色素を指すと思われます。
 日本の『食品衛生法』で使用許可されているのものとして
・食用赤色2号(別名アマランス)およびそのアルミニウムレーキ
・食用赤色3号(別名エリスロシン)およびそのアルミニウムレーキ
・食用赤色40号(別名アルラレッドAC)およびそのアルミニウムレーキ
・・・云々等とありますが、
上記アメリカ食用色素と日本の食品衛生法で規定されている色素は同じ物なのでしょうか?
 米国食品医薬品局(FDA: The Food and Drug Administration)は、食品、医薬品、化粧品で使用できる色素を決めました(http://www.cfsan.fda.gov/~dms/opa-col2.html)。
 FD&C (Food, Drug and Cosmetic):は食品、医薬品、化粧品で使用が認められたもの。
 D&C (Drug and Cosmetic):は医薬品、化粧品での使用が認められたものです。
 External D&C (External Drug and Cosmetic) :は軟膏などの外部薬品に認められているものです。
 以下に食用色素のFD&C 番号と対応する日本名を記します。

FD&C 番号 → 日本名
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FD&C Yellow No.5 → 食用黄色4号 Yellow No.4
FD&C Yellow No.6 → 黄色5号 Yellow No.5
FD&C Red No.40 → 赤色40号 Red No.40
FD&C Blue No.1  → 青色1号 Blue No.1
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となっており、同じものです。
 FD&C番号は国際的ですので、輸入品にはこの番号が付けられております。これらの色素は全て合成食用色素で、日本では認められているものです。
 

 
   
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