緑や黄色の口紅を唇に塗ると、赤やピンクになる「色の変わる口紅」があります。どうして色が変わるのでしょうか?
口紅に使われている色素には法的な規制があり、限られていますし、食用色素にはさらに厳しい規制があります。しかし、色の変わる口紅は当社の製品ではないので、そこに含まれる化学品が何であるかを知ることができません。また、残念ながら回答者は男性で、口紅を持っていませんので、これ以上詳しく調べることができません。したがって、以下の説明は化学的な可能性を示しただけで、現在市販されている「色の変わる口紅」とは無関係ですので、ご了承ください。また、説明に出てくる化学品は化粧品への使用が認められているものとは限りませんので、ご注意ください。
口紅が容器に入った状態と唇に塗ったときとで、まず温度が違います。それに、人間の肌は弱酸性ですし、水分も含まれています。これらの条件によって色が変わると考えられます。
温度によって色が変わる色素は「感熱色素または感温色素」と言われます。代表的な物は感熱紙に使われている色素です。感熱紙では、150℃以上の高温で着色しますが、この温度を体温(〜38℃)程度に低くすれば、唇に塗ったときに発色させることができます。例えば、ジブチルフェノール(2,6-di-tert-butylphenol,
mp 35-38℃)は室温では固体ですが、35〜38℃付近で融けて液体になります。そこで、これに色素と顕色剤を混合しておくと、唇に塗ったとき融けて、色素と顕色剤が反応して赤く着色するようになります。
容器内では無色で、唇に塗ると色が着く口紅?
|
容器内では無色で、肌に塗ると色が着く口紅は上のようなものでいいですが、最初が黄色で唇に塗ると赤くなる口紅は少し工夫が必要です。しかし、唇は水分があって弱酸性であることを利用すると、これも可能になります。
酸性、中性、アルカリ性で色素の色が変化することを、Q19で説明しました。そこで出てきた指示薬のメチルオレンジを使って、黄色から赤色に変わる口紅?を作ってみましょう。メチルオレンジをあらかじめ酸性にして黄色にしておきます。この黄色の色素を温めてジブチルフェノールに溶かし、冷やして口紅とします。これを唇に塗ると、体温でジブチルフェノールが融けて黄色の色素が出てきます。水分のある弱酸性の皮膚に触れると、黄色のメチルオレンジは赤色に変色します。(注意:口紅を自作する場合は、色素や薬品が安全であるかを確かめてください)
メチルオレンジを用いた、黄色→赤色変化の口紅?
|
|
温度によって可逆的に色が変わるものは少し工夫が必要です。
温度計に使われる液晶は、温度によって液体になったり結晶になったりして色が変わるので(Q06)、色素の色が温度で変化するのではありません。
温度による液晶の色変化
|
繊維に使われているものとしては、スキーウエアーがあります。スキーをしている寒いときと、ホテルのロビーの温かいところで色が可逆的に変わるもので、2種類のスキーウエアーを着ているようにみえます。これは、ロイコ色素と色素が温度によって可逆的に変わるものと、顕色剤やロイコ色素の組み合わせのものとがあります。
低温で無色で高温で着色する感熱色素でも、可逆的な脱色、発色システムを作ることができる。このためには、温度を下げたときに容易に結晶化する顕色剤を使います。温度が下がって顕色剤が結晶化すると、顕色剤と色素が分離し、色素は再び無色のロイコ色素に戻ります。
可逆的な感熱色素
|
セルロースの誘導体などの高分子には温度によって親水性になったり親油性になったりする物もあるので、これに顕色剤とロイコ色素を入れておくと、色が可逆的に変わります。温度によって芳香剤が出たり出なかったりするシステムや、体温が高くなったら解熱剤が出て、温度が下がったら薬が止まるシステムにすることができます。
|