孔雀の羽
|
|
|
孔雀の羽の眼のような模様の色は、色素によるものではありません。では、どうしてこのようにきれいな色になるのでしょうか?孔雀の羽の色は、シャボン玉の色やコンパクトディスクの色などと同じ仕組みの色です。他にも貝殻の内側の真珠色、青い蝶々の色、宝石のオパールの色なども同じ原理です。
われわれの周りには多くの天然の色がありますが、いずれも光と物質の作用によることは間違いありません。物体の色は主に三つの仕組みによって出ます。一つは色素によるもので、光の一定の波長(色)を反射して他を吸収するために、反射した波長の色になります。光と色素との作用については、これまでのQ&Aで述べてきました。たとえば赤い物体は光の赤の波長を反射してその他の青や緑の波長を吸収するので、赤く見えます。
|
|
|
|
|
(1)色素による色
|
|
(2)選択散乱による色
|
|
(3)光の干渉による色
|
二つ目は選択散乱によるもので、空の青が例です。光の波長よりも小さい粒子があると、光は特殊な散乱をして青く見えます。青空の色は、空気中のガス(窒素や酸素)の粒子によって波長の短い青が波長の長い赤に比べて優先的に散乱したためです(レイリー散乱、Rayleigh)。鳥の羽(特に熱帯の)もきれいですが、赤は色素によるもので、青は散乱によるものです。カケスの青の散乱は羽の上の黒い層の上にある小さな気泡やケラチンによるものです。青い光は散乱されますが、散乱されないその他の色は黒に吸収されます。
|
|
|
カケス
|
|
池に二つの石を投げた波紋の重なり
|
孔雀の羽の色は、色素、散乱に次ぐ第三の色で、干渉色と呼ばれます。光の波がお互いに干渉して弱めあったり強めあったりするためです。静かな池に小石を投げると波が広がります。少し離して小石を二つ投げると、二つの波が広がります。よく見ると、波が重なった部分は、元の波より高くなったら低くなったりしています。これが波の干渉です。コンパクトディスクやシャボン玉は本来無色ですが、虹色に見えます。干渉色の特徴は、見る角度によって色が異なることです。上で述べた色素や散乱の色は、見る方向には無関係に同じ色に見えます。カケスの青色は回転しても青ですが、孔雀の羽の色は見る角度によって変わってきます。
光は波ですが、波の周期の進行状況を表すのが位相です。位相が同じであれば、山や谷が来る時間は同じですが、位相が逆ならば、山と谷が来る時間が逆になります。光の干渉は、位相が同じときは強くなり、位相が逆の時は弱められます。
|
|
|
光の位相が同じ時の干渉(強くなる)
|
|
光の位相が逆の時の干渉(弱くなる)
|
鳥や昆虫の色は複雑なので、簡単なシャボン玉でその原理を考えてみましょう。シャボン玉に光が当たると、一部は表面で反射してその他はシャボン玉の膜の中に入ります。表面を通り抜けた光は、空気と水の屈折率が違うので膜の裏側で反射します。このような2種類の光が互いに干渉して強めあったり弱めあったりします。膜を透過して裏面で反射した光は、長い距離を移動しているので、表面で直接反射した光とは位相が異なる場合があります。膜の表面で反射した光と、膜の裏面で反射した光の位相が同じであるときは光が強くなります。二つの光の位相が逆の場合は、光が弱くなります。光の位相は膜の厚さと反射(見る角度)によって変わってきます。例えば、青い光は一定の膜の厚さと一定の見る角度では強くなりますが、角度が変わると弱くなってしまいます。シャボン玉の膜の厚さは一定ですから、波長の長い赤の光の強まる角度は変わってきます。これが、シャボン玉が虹色に見える理由です。
|
|
|
シャボン玉
|
|
膜の表面と裏面からの光の干渉
|
コンパクトディスク(CD)やCD-ROMには、音楽やデーターが多量に記録されています。CDには光の波長と同じような大きさの穴が空いています。レーザー光を上から直角に当てて反射してくる光を見ます。穴が無いと光は直ぐに帰ってきますが、穴があると少し帰りが遅くなります。その違いでデーターをデジタルで読んでいるのです。虹色に見える理由は、ちょうど、シャボン玉の表面で反射した光と、膜を通って膜の裏側で反射した光と同じ理由です。穴の無いところで反射した光と、穴に入って反射した光が干渉して、虹色に見えます。
CDによる光の干渉
|
孔雀の羽には、メラニンの小さな枝があります。この枝に当たった光が干渉して虹色になります。南米に住むモルホ蝶(Morpho butterflies)はきれいな青色をしています。これは、蝶の翅の鱗粉が板状で光の波長程度の間隔で並んでいます。これに当たって反射した光が干渉するのです。
モルホ蝶
|
アワビなどの貝殻の内側も虹色をしています。ウロコのような薄くて固い物質が積み重なっているのですが、その厚さが光の波長程度で、段々畑のような所で反射した光が干渉して、虹色に見えるのです。虹色に見える昆虫も、薄い表皮が積み重なって同じような構造をしています。宝石のオパールは、石の中に小さな気泡があるためです。いずれも、シャボン玉と同じ原理で虹色に見えるのです。
薄片からの反射光による干渉
|
|