指示薬が溶液のpHによって色が変わるのは、酸性ではH+、アルカリ性ではOH-により色素が反応して構造が変わるためです。Q
43では、変色するpHの順序で並べましたが、ここでは構造により分類して補足説明します。
トリフェニルメタン系
3個のベンゼン環が1つの炭素に結合している化合物がトリフェニルメタンです。代表的な指示薬はメチルバイオレットです。
メチルバイオレットのpHによる構造変化はQ 43で詳しく説明しましたが、もう一度示しておきます。
ラクトン系
ラクトンとは環状のエステルです。
フェノールフタレイン(Q 43)が代表的な指示薬です。中性では無色で、pH8以上では淡いピンクになりますが、さらにアルカリになると強いピンクになります。
pH 8.0でラクトン環が開いて、1つのフェノールがキノン型になり、淡いピンクとなります。ラクトン環が開くことによってベンゼン環と炭素の間が二重結合になり、二つのベンゼン環が共役するようになります。ラクトン環ではベンゼン環の共役は無く、波長の短い紫外線しか吸収しないので無色でしたが、ラクトンが開くと長い波長の赤色を吸収するようになります。ラクトンの状態では水に溶けにくいのですが、ラクトン環が開くとイオン(-COO-)になるので、水に溶けやすくなります。
さらにアルカリ側でpH 10.0になると、もう一つのフェノールがアニオンとなって、濃いピンクとなります。
構造にもよりますが、一般にラクトン環は酸性で生成し、アルカリ性で開環します。ただし、酸性で閉環すると、ラクトン環は水に溶けにくいので、高濃度では不溶化して沈澱になります。沈殿はアルコールを加えると溶けてしまいますが、あまり多くのアルコールを入れると、変色域が変わってしまいます。水の解離平衡が変わってしまうからです。
フェノールフタレインはpH 10付近で使う指示薬ですが、NaOHなどの濃度が高いとピンクが再び無色になってしまいます。普通の滴定に使う濃度ではこのようなことは起こりませんが、濃度が高いとOH-が中心の炭素に結合して、トリフェニルメチルカルビノールが生成します。この化合物はベンゼン環どうしの共役が無いので無色になります。pH14以下の呈色反応は平衡反応で速いですが、pH14以上の無色になる反応は、フェノールフタレインとOH-との2分子反応ですから、ゆっくり進みます。高濃度のNaOH水溶液にフェノールフタレイン溶液を加えると、最初はピンクになり、徐々に色が消えていくのが観察されます。トリフェニルメチルカルビノールは不安定ですので、溶液を薄めていくと、分解して再びピンクになっていきます。
チモールフタレイン(Q 43)もラクトン環があります。チモールフタレインはフェノールフタレインに比べて、ベンゼン環にメチル基とイソプロピル基が付いていますので、環が開きにくくpH9以上のアルカリ性が必要です。
サルトン系
ラクトンはカルボン酸(-COOH)の環状エステルですが、サルトン(sultone)はスルホン酸(-SO3H)の環状エステルです。
フェノールレッド(Q 43)はサルトン系の例です。酸性から中性にかけて黄色ですが、pH
6.8から8.2で変色し、アルカリでは赤色になります。ラクトンのフェノールフタレインよりもやや酸性で開環します。カルボン酸とスルホン酸の酸性の違いです。酸性ではキノン型構造ですが、置換基が無いので長波長での吸収が無く黄色です。アルカリでは、もう一方のフェノールがアニオンとなり、長波長に吸収があって赤色になります。
ここで問題なのは、フェノールフタレインのような閉環したサルトンの構造があるかどうかです。フェノールフタレインの結晶は白または薄い黄色ですが、フェノールレッドの結晶は赤です。閉環したサルトンは無色または薄い黄色だと思われるので、結晶では開環した構造と思われます。フェノールフタレイン、フェノールレッドのいずれも水への溶解性は低く、アルコール溶液として指示薬に使います。したがって、フェノールフタレインやフェノールレッドでは、水に溶けた状態では開環して、酸が部分的に解離しているいると考えられます。
チモールブルー(Q 43)もサルトン系ですが、色が変わるpHが2つあり、pH
1.2 - 2.8で赤から黄色に、 pH 7.8 - 9.5 で黄色から青に変わります。酸性での赤についても開環した構造は考えにくいので、フェノールがプロトン化(H+が-OHに付いたもの)した構造が考えられています。
ブロモフェノールブルー(Q 43)は、酸性ではグリーンがかった黄色で、pH
3.0から4.6にかけて変色し、中性、アルカリでは青です。
ブロモフェノールブルーは水への溶解性があるので、酸性側では環状スルホンになっていると考えられます。3つのベンゼン環に電子の流れはなく、長波長の吸収はありません。中性ではスルホン環が開き、フェノールはキノン型となって、青くなります。
ブロモクレゾールグリーン(Bromocresol Green)は、ブロモフェノールブルーのベンゼン環にメチル基が付いたものです。
性質: クリーム色の結晶性粉末。溶解性:水(20℃)6 g/l, アルコール 40 g/l。 融点;225℃。Merck Index 12 , 1407。UV; λ1 of max. ABS at pH
3.8 438-443 nm、λ2 of max. ABS at pH 5.4 615-618 nm。pK 4.7。pH indicator 3.8 yellow; 5.4 blue.
ブロモクレゾールパープル(bromocresol purple)は、ブロモフェノールブルーのベンゼン環にある1個のBrがメチル基になったものです。
性質:紫色の粉末。溶解性;水(20℃) 20 g/l 、アルコール 80 g/l 。融点;240℃。Merck Index
12 , 1408。UV; λ1 of max. ABS at pH 5.2 427-433 nm、λ2 of max. ABS at pH 6.8 588-590 nm。pK 6.3。pH indicator:
5.2 greenish yellow ; 6.8 bluish purple。
ジアゾ系
ジアゾ基(-N=N-)を含む指示薬です。
メチルイエロー(Q 43)は代表的なジアゾ系指示薬ですが、中性ではジメチルアニリンに由来する黄色です。酸性(pH 2.9以下)になると、ベンゼン環とNの間に二重結合ができて、長波長の光を吸収しピンクーオレンジになります。pH
4.0では、黄色になります。
メチルオレンジ(Q 43)は酸性ではピンクーオレンジで、pH
3.2から4.4にかけて変色し、中性、アルカリでは黄色になるジアゾ系指示薬です。メチルイエローの片方のベンゼン環にスルホン基が付いているので、変色域が変化しています。
メチルレッド(Q 43)は、酸性で赤、pH 4.2から6.2で変色し、中性、アルカリ性では黄色になります。メチルレッドの構造は上のメチルオレンジとよく似ていて、-SO3Hが-COOHに変わっただけです。色の変わる領域は、pH 4.2 - 6.2ですが、ベンゼン環に付いている-COOHの影響でプロトンが付きにくくなっています。
アリザリンイエローR(Q 43)はジアゾ基を含むメチルオレンジやメチルレッドと同じような構造ですが、中性では黄色、アルカリ性(pH
10.1-12.1)では赤になります。
エリオクロムブラックT(Eriochrome Black T)は、EBTまたはBTといわれている金属指示薬で、水の硬度を測定するために、EDTA(EthyleneDiamine
TetraAceteic Acid)と共に用いられる。
Eriochrome Black T: CAS [1787-61-7], Merck Index 12, 3709 ,λmax. ABS in H2O: 620-630
nm.
中性では青色であるが、pH 6以下の酸性では赤色の沈殿を生成する。これは、アミノ酸と同じく分子内にプラスとマイナスが存在するためです。pH
12以上ではオレンジ色になる。
カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)などが存在すると、キレートを作って赤色になります。これにEDTAを加えると、BETよりもEDTAの方が強いので、EDTAがCa2+やMg2+とキレートを作ってしまい、BETは赤から青に変わってしまいます。これで、水中のMgイオンなどの量を決めることができます。
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