77   

キリヤ化学ホームページへ

 
   水に溶かした色素を元に戻す方法はありますか?
   

 
 色素溶液から、色素を取り出すことは熱力学第2法則から無理だと述べました。しかし、万有引力に逆らって、ハシゴを使って落ちたリンゴを元の木の枝に戻すことはできます。ただし、リンゴのヘタはコルク化(Q&A10)しているので、元のように枝に付けることはできません。

ベニコウジ色素(モナスカス色素)Monascus colour

 

ベニコウジ色素溶液

 ところで、色素溶液からなんとか色素を取り出す方法はないのでしょうか?
色素溶液から水を取り出すか、色素を取り出す方法があればいいのです。


蒸溜(水を取り出す)

 

蒸留装置

 

ロータリー・エバポレーター

 水をなくすには加熱して水を蒸発させればいいですね。左の図は化学の実験で使う蒸留装置ですが、1で加熱され、水は水蒸気になり2→3を経て5の冷却管に移動して、温度が下がるので再び液体の水になり8に貯まります。沸点は4の温度計で3の位置での水蒸気の温度を測ります。6→7は冷却水を流します。真空ポンプを使って9から空気を除くと容器内は1気圧より低い減圧状態になります。
 1気圧で蒸留するときは、沸騰が急に起こらない(突沸)ように沸石を入れます。
沸石はゼオライト(zeolite)という鉱物です。ゼオライトはアルミノケイ酸塩で、結晶中に大きな空間があります。その空間を利用して分子ふるい、イオン交換材料、触媒、吸着材料としても利用されます。福島原子力発電所の事故で放射性汚染水を処理するのにも使われて有名になりました。ゼオライトが無いときはガラス管を過熱してこねて白い状態にすると、沸石として使えます。

ゼオライト

ゼオライトの結晶構造

 水を加熱すると100℃で水蒸気になりますが、沸騰せずに過熱状態になることがあります。その時衝撃を与えると急に沸騰(突沸)が起こり、体積が膨張して飛び散り火傷などが起こります。穴がたくさん空いた沸石があると、小さな泡がでて沸騰が穏やかにおこり突沸は起こりません。
 減圧で蒸留するときは沸石の効果が無いので、2の液体を攪拌するか、右の図のような容器を回転させながら減圧にします。これがロータリー・エバポレーターです。水蒸気はA→Bへと進み、Eの冷却水で冷やされて液体となり、Cに貯まります。減圧ポンプをDに結合して減圧にします。Aの容器は回転するので突沸はしません。

 問題は天然色素は加熱すると壊れてしまいますので、低い温度で水を蒸発させねばなりません。水は100℃で沸騰するので、そのような方法はあるのでしょうか?
 水は0℃以下では固体の氷で、加熱すると溶けて水になり、さらに100℃になると沸騰します。これは1気圧での話で、気圧が変わると沸騰する温度は低くなります。たとえば、富士山の頂上では気圧が低いので、88℃で水は沸騰します()、ご飯は生煮えになります。
 気圧と温度の関係を示すのは「相図(phase diagram)」と呼ばれ、水の場合は次の図のようになります。0℃の氷は温度が上がると水になりますが、圧力が高くなっても水になります。スケート靴の下にはブレード言う金属製のエッジがありますが、体重がそのエッジにかかり、その圧力で氷が溶けて水になり摩擦力が低下してよく滑るのです。
 この図を見て分かることは、水は1気圧よりも低いと100℃以下で水蒸気になり()、さらに氷から水を通らずに水蒸気になる()ことができるということです。この方法を凍結乾燥といいます。容器に溶液を入れ、一度凍結させて、減圧にします。すると、氷から水を通らず水蒸気になり(昇華)、水を取り出すことができます。最初は凍結させないと突沸しますが、減圧で水分を除くので温度が下がりますので、以後は冷却する必要はありません。この方法を凍結乾燥(フリーズドライ;Lyophilization)といいますが、粉末コーヒーやインスタント味噌汁などのフリーズドライ製品ですし、寒天や高野豆腐も冬の冷気を利用したフリーズドライ製品です。この方法を使えば、純粋な色素の粉末が得られます。

水の相図

 次は色素を取り出す方法です。

 

 
   
Q&A INDEX   Q-76へ